消滅寸前 アイヌ言語を残すには

「日本の言語」と言われて思い浮かべるのは、今読んでいる「日本語」でしょうか。法律上「国語」という用例はあるものの、日本には国の言語や公用語を定める条文はありません。教育現場や国会など公の場で使われる言葉は「日本語」ですが、国内には数々の美しい言語や方言が存在しています。

国連教育科学文化機関(ユネスコ)が平成21年には発表したAtlas of the World’s Languages in Danger(第3版)によれば、日本国内の8つの言語と方言が消滅の危機にあります。それぞれの危機の度合いは次のとおりです。

危険:八丈語(八丈方言)・奄美語(奄美方言)・国頭語(国頭方言)・沖縄語(沖縄方言)・宮古語(宮古方言)

重大な危険:八重山語(八重山方言)・与那国語(与那国方言)

極めて深刻:アイヌ語

最も消滅の危険度が高い「アイヌ語」は、北海道を中心に居住し独自の文化を持つ「アイヌ民族」が使っていた言語です。明治維新以降、アイヌ民族は開拓のために北海道に入植してきた多くの日本人による差別や貧困に苦しめられてきました。

1899年に制定された「北海道旧土人保護法」では、アイヌ文化が否定され、同化政策が推し進められました。1997年、この法律を廃止し、人々の民族としての誇りが尊重される社会の実現を目指して「アイヌ文化振興法」が施行。ただ、アイヌの人々が求めていた「先住権」は含まれませんでした。

6日付の朝日新聞では、アイヌ民族を「先住民族」と初めて明記したアイヌ新法案が今国会に提出されることが報じられています。差別の禁止や観光振興を支援する交付金の創立が盛り込まれ、地域や産業の振興、国際交流を見据えた総合的なアイヌ政策へ転換が図られるようです。先住民族への配慮を求める国際的な要請の高まりに応え、訪日外国人客への観光資源として活用したい政府の狙いがあります。

関係者の中では喜びの声が上がる一方、格差や差別は依然として残っています。北海道が63市町村を対象に行った2017年の調査では、671人のうち23.2%が「差別を受けたことがある」と回答しています。アイヌ民族である出自を公にしていない人もおり、正確な調査が難しいことも背景にあります。

筆者は、小学生の時に北海道に住んだ経験があります。学校で、アイヌ文化の美しさやアイヌ民族が受けてきた差別や偏見の歴史を学びました。東京では見たことも聞いたこともなかった事実の数々に、大変驚いたことを覚えています。同級生にはアイヌ出身の友人もいました。

新法によって、アイヌへの理解が広がり深まるっていくことが期待されます。注目が集まれば、消えゆくアイヌ言語を守り抜くことができるかもしれません。そのための法律の整備や様々な支援が、今求められています。

 

参考:

6日付 朝日新聞朝刊(東京13版)4面(総合)『「アイヌは先住民族」法案明記』

文化庁HP 「消滅の危機にある言語・方言

参議院法制局「法律と国語・日本語