インフル新薬 安全性は?

日本列島で猛威を振るうインフルエンザウイルス。幼い頃は一度もかかったことがなかったのに、上京してからは毎年感染して、高熱の中近くの病院に駆け込む始末です。一人暮らしの病気はつらいので、「今年こそは」という思いで、今は手洗いうがいやバランスのとれた食事を心掛けています。

今日の紙面には、「インフル薬 小さな巨人」という見出しで、塩野義製薬が2018年に発売した「ゾフルーザ」が紹介されています。

これまでの薬と違い、錠剤で「一回飲むだけ」の手軽さが売りです。従来はウイルスが細胞の外に広がるのを抑えるものでしたが、新薬は細胞内でウイルス自体の増殖を抑えるため、周りの人への感染をより効果的に抑えられる可能性があります。タミフルと同程度の効果があると国際共同試験で示されており、2018年10~12月の国内の数量シェアは47パーセントを占めました。

一方で、安全性には懸念が残ります。ほかの薬と比べ、耐性ウイルスが出現しやすいとの指摘があります。臨床試験では、「ゾフルーザ」を投与した成人の9.7%、小児の23.3%で耐性ウイルスが確認され、発熱などの症状が消えるまでの時間が長かったと報告されています。

私は以前、公的助成があると知り、子宮頸がんワクチンを接種しました。「副作用が出ている人がいるみたい」と母から聞いたものの、深く考えずに「きっと大丈夫だろう」と安易に決断しました。結果的に問題は起きなかったのですが、のちに体の痛みやしびれなどを訴える同世代の子たちの声をニュースで聞いて、心が痛むとともに不安な気持ちになったのを覚えています。予防効果が高いとされるワクチンを接種したことは正解だったのか今でもわかりませんが、何も調べることなく軽率に接種したことを後悔しました。

世界大手が素通りする感染症の分野と創薬にこだわって、業界トップ水準の利益率を上げている塩野義製薬の手代木社長は、今の処方の在り方に警鐘を鳴らしています。

国民皆保険という恵まれた制度により、症状を言って服用する薬をもらうだけで済みます。お医者さんと患者の知識の落差が大きく、負担が小さいため薬に対して関心を払わなくなってしまうというのです。「使われている薬がどういうもので、自分に合っているか、いくらまでならお金を出せるか、各人が判断できるよう消費財のように情報提供しなくてはならない」と話します。

日本小児科学会は、「ゾフルーザ」を今シーズンの治療指針では推奨していません。発売から日にちが浅く、情報が少ないためです。ダメというわけでは決してありませんが、有効性や安全性に関する十分なデータを集め、適切な使用方法を検討する必要がありそうです。私たちも、知識を身につけ、安全性を第一に考えて慎重に処方薬を選びたいものです。

参考記事 5日付 日本経済新聞 朝刊 13版 14面 「インフル薬 小さな巨人」

読売新聞 12版 6面 「創薬追及『ええもんを安く』」