Brexitのその先は?

世界を驚かせた英国の選択、EU離脱「ブレグジット」から1年半が過ぎました。現地では、今も混乱が続いています。

10月にロンドンを訪れた際は、連日、ビッグベンで有名な国会議事堂の前で抗議する人たちを見かけました。週末、観光のために訪れたトラファルガー広場の周辺でも、離脱に反対し再投票を望む人たちのデモ行進が行われていました。EUの旗や手作りのプラカードを持った人も多く、70万人以上が参加したといわれています。

語学学校の先生やホストファミリーにも話を聞いてみました。幼い子供を持つ若い女性は「再投票か残留に近い離脱を望んでいる。次は、マーチ(デモ行進)に参加しようと思っている」と話しました。一方、ロンドン出身の中年男性は、「移民が増え、英国人の権利が守られていない。ブレグジットには驚かなかったよ」と教えてくれました。投票で世論が二分した通り、様々な意見が存在する複雑さを実感しました。

ロンドン トラファルガー広場にて

10月20日 筆者撮影

離脱協定案の決定、EU議会の承認など、手続きは佳境を迎えています。しかし、国内の反発は強く、また複数の閣僚が辞任するなど、いばらの道を突き進んでいます。

メイ首相は10日、EUからの離脱協定案の下院採択を延期することを表明しました。協定案には、野党のみならず与党・保守党内の一部も反対しており、下院で承認を得られないと判断したためです。13日から始まるEU首脳会議で協定案の見直しを求める見込みですが、加盟国は修正に応じない構えです。

メイ氏のスタンスは当初、「EUの単一市場と関税同盟から離脱」というものでした。しかし、EUとの妥協策では2020年末まで、英国を単一市場、関税同盟に残す移行期間を設けることが盛り込まれました。交渉が難航している大きな理由に、北アイルランド問題があります。

アイルランド島には、英・北アイルランドとEU加盟国のアイルランドが陸続きで存在します。この地はかつて、宗派対立による紛争の舞台となりましたが、EUの下で経済、社会の一体化が進んできました。離脱で再び厳格な国境管理が復活し、地域の不安定化を招く事態は避けたいところです。しかし、EUから抜けるのに国境は作らないという矛盾への解は見つからず、混迷を極めています。

20年以降も解決しない場合は、製品の基準などのルールは北アイルランドのみEUルールに合わせるという安全策で合意しました。けれども、EUとの決別を望む強硬離脱からは、「アイルランド問題が解決しない限り、EUに縛られ続ける」という意見が噴出しています。

一方で、北アイルランドの地域政党で与党に協力している民主統一党(DUP)からは、「北アイルランドだけがEUルールに合わせれば、英国から切り離される」という批判もあります。メイ氏は板挟みとなり、与党内の分裂を解消できていません。

欧州司法裁判所は先日、英国はEU加盟の条件を変えることなくブレグジットを取り消せるとの判断を下しました。離脱の取り消しもあり得るというものです。来年3月に迫る離脱の期限。最も避けねばならない合意のない無秩序離脱が起きれば、国民生活にとどまらず世界経済に大きな打撃を与えます。先が全く見通せない中、前途多難な道をどう進むのか。大国の決断を、見守りたいと思います。

 

参考記事 12日付 各紙「EU離脱 英議会採決延期」関連面