フィルム新世代?

「世の中、不純物を嫌い、つるつるぴかぴか一方向。モコモコした低い音質に込められた世界もあるんです」

13日の朝日新聞「ひと」欄、音楽家の鈴木惣一朗さんの言葉です。耳鳴りを患い、同じ悩みを抱える坂本龍一さんと「耳鳴りに悩んだ音楽家がつくったCDブック」を出したそうです。

研ぎ澄まされた高音質や高画質が好まれる時代でありながら、アナログな不純物を好む層も、年齢を問わずいます。読売新聞で始まったシリーズ「平成最後の若者事情」では、そんな層にもスポットを当てています。レンズ付きフィルム「写ルンです」で撮った作品を展示した写真展で、「スマホで撮影した画像よりおしゃれ」と話す男子大学生の声が紹介されています。

筆者の父はいわゆる「まちの写真屋さん」で、DPE店(フィルムの現像・焼付等を行う店)チェーンを経営する中小企業の社員でした。駅の空きスペースにテナントで入っているタイプの店です。富士フイルムが「世界初のレンズ付きフィルム」として「写ルンです」を売り出してから今年で32年。父が写真現像の業界に関わりはじめたのは30年ほど前なので、ちょうど時期がかぶります。しかし父は「デジタルカメラへの移行期だった」と言います。

DPE店はかつて、ラボ(現像所)の車が朝と昼に集配を行い、夕方受け取れるといった、クリーニング店のようなシステムでした。現像からプリントまでを行う「ミニラボ」の機器が開発されてからは、自店舗で現像する店が増え、短時間でプリントが行えるようになりましたが、デジタルカメラの登場や家庭用プリンターの高性能化で店舗数は減少傾向に。「銀塩写真は色褪せない」ことが売りでしたが、デジタルの波には逆らえませんでした。父は10年前に早期退職し、その会社は現在、証明写真機や出張カメラマンの撮影が主たる収入となっています。

筆者の所属するサークルの部室で後輩に聞くと、「写ルンです」を知らない人が数名いました。かつて遊園地や観光地で「写ルンです」の自動販売機をよく目にしていただけに、少しショックを受けました。確かに、「撮りっきりコニカ」「スナップキッズ」といった他社のカメラもあった記憶はありますが、レンズ付きフィルムの代名詞なだけに残念に思います。

フィルムそのものを見る機会も減っています。小さい頃、テレビの工作番組の材料には「フィルムケースのふた」が多用されていましたが、現在の工作番組で見ることはありません。家庭には無いものになってしまったのでしょう。コンビニでも扱っている店舗の方が少数派のようです。

photo:すしぱく(フリー素材ぱくたそ

23区内のDPE店でアルバイトをしている友人によれば、個人客の客層は「60代以上」、写真の内容は友人・家族との旅行や孫の写真が多いといいます。本格的なフィルムカメラで撮った写真を現像しに来る人は風景や人物。反対に、「写ルンです」を持ってくる若い人たちは「スマホで撮れるものを敢えて撮る」のだといいます。昨年から、インスタ(インスタグラム、写真を中心としたSNS)で「写ルンです」で撮った写真をアップロードするユーザーが増え、流行になりました。しかし皮肉なことに、彼ら・彼女らが求めているのはフィルムそのものではなく「フィルム調」の写真なのです。スマートフォンの画像アプリにも大抵、フィルム調のエフェクトが入っていることが物語っています。

フィルムも使うという別の友人は「フィルムカメラは奥が深いです」と言います。しかし今年4月には富士フイルムが白黒フィルムや印画紙の生産終了を発表するなど、徐々にしわ寄せも来ています。フィルムカメラは平成を越えて残るでしょうか。「つるつるぴかぴか」でない写真もまた、良いものだと思うのですが。

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