災害とインフラ

災害時にこそ情報の正確性が求められます。「万が一」が起きた時、正しい情報の伝達が保証されるかどうかは、新聞をはじめとした情報インフラがその機能を発揮できるかにかかっています。

6日未明に発生した北海道胆振東部地震で被災された方に、心からお見舞い申し上げます。

今回の地震では地震そのもの以外の二次被害が目立つ中、特に目立っているのがインフラ設備です。北海道電力の管内では、日本初とされる「ブラックアウト」(=発電機が周波数バランスの崩れですべて止まる現象)が発生し、道内のほぼ全域で停電。復旧に時間を要しました。

災害大国とされる日本は、他国に比べて災害に対するインフラ強化に力を入れてきました。しかしそれでもなお、「想定外」の出来事は起こりえます。近年の災害を見ていると「インフラ」に追加して「情報インフラ」と呼ばれる言葉を聞く機会が多くなったように思います。

2000年代以降の、SNSを含めたソーシャルメディアの発達により、災害時の情報伝達について目が向けられるようになっているのも事実です。ソーシャルメディアの即時性は、確かに類を見ない速さでしょう。しかし、今回の停電などを見ていると、電気が枯渇した際に電波も繋がらなくなった場合、折角の端末を使えなくなってしまう可能性を考える必要があるようです。そうした場合に力を発揮するものこそ、新聞やラジオといったマスメディアであるように思います。

今回の地震で被害が大きかった胆振地方には、夕刊紙「苫小牧民報」や日刊紙「室蘭民報」といった新聞社の本社があります。両紙とも、停電で発行が困難になりながらも読者に情報を届け、ツイッター上では「こんな中よく印刷してくれた」「命懸けの配達した人に敬意」といった投稿がありました。

苫小牧民報は2015年7月に、号外発行に特化した専用車「タイムズ号」を新調していました。普段はイベント時などの特別号をその場で発行し、災害時には取材拠点や電源供給車としても活用する目的での導入。今年7月には、室蘭民報社と苫小牧民報社は「緊急事態発生時における新聞発行援助に関する基本協定」を締結し、新聞発行が不能な際の発行支援を相互で行うことを確認していました。そして今回、室蘭民報社は新聞を発行することが一時できなくなり、「タイムズ号」で号外発行を行ったのです。結果として6日の夕刊については事実上発行ができなかった室蘭民報でしたが、翌日7日の朝刊からは発行を再開し、夜までには夕刊とセットで戸別宅配も概ね復旧しました。

災害時の新聞発行と言えば、東日本大震災が一つの転換点でした。宮城県石巻市の「石巻日日(ひび)新聞」は、2011年の震災当時、社屋が津波で被害を受けたことで発行ができなくなり、6日間にわたって手書きの号外「壁新聞」を貼り出すことで、休まず発行したことで知られます。また同じく宮城県の「河北新報」は、紙面制作に関連する機器が故障しましたが、近隣の新潟日報の制作システムを借りる形で発行を続けました。それぞれ、当時の状況が書籍化されています。その後、地方新聞社の間で発行や印刷に関する協定がより強固に結ばれるようになったといえば、容易に理解できるでしょう。

北海道全域に読者を持つ、北海道新聞はどうだったのでしょうか。各印刷工場で非常用電源や資材の備蓄があったことで発行が止まることはなかったようです。10日は休刊日ですが、特別にデジタル向け紙面を展開するとも発表しています。またブロック紙3社連合(北海道新聞社・中日新聞社・西日本新聞社)では、北海道新聞の記事を他の2社が使用するなどして紙面を展開しました。地震発生時、私は福岡市に滞在していましたが、西日本新聞の6日夕刊や7日朝刊には北海道新聞社の記事や写真が多数掲載されています。その土地の事情を知る新聞社だからこそ書ける、住民目線の詳細な記事があるのだと実感しました。

以前「災害時こそデマ注意!噂が嘘に変わるとき」で触れたように、不安で不確定な情報にもすがりたい心理はわかります。それでも、不安だからこそ裏付けの取れた情報を信じることが必要です。残念ながら今回も被災地では多数のデマが出回っているとも聞きます。

石巻日日新聞の1日目の壁新聞には、次のように書かれていました。
「正確な情報で行動を!」
全ては、この一言に尽きるのではないでしょうか。

参考記事:
8日付 朝日新聞朝刊(東京14版)1面「北海道 余震100回超」ほか関連記事
8日付 読売新聞朝刊(東京13S版)1面「停電 きょうにも復旧」ほか関連記事
8日付 日本経済新聞朝刊(東京14版)1面「北海道停電 ほぼ解消へ」ほか関連記事
7日付 西日本新聞朝刊(19版)1面「北海道 震度7」ほか関連記事
7日付 室蘭民報朝刊1面「胆振 巨大地震」
6日付 苫小牧民報1面「厚真町で土砂崩れ 安否不明者多数」
7月21日付 室蘭民報WEBNEWS「緊急時の新聞発行を相互援助、室蘭民報社と苫民が協定」
2015年7月4日付 苫小牧民報「走る編集局「タイムズ号」発進 キラキラ公園で特別号発行」

参考資料:
『6枚の壁新聞 石巻日日新聞・東日本大震災後7日間の記録』(石巻日日新聞社編、角川SSC新書)
『河北新報のいちばん長い日』(河北新報社著、文藝春秋)