各紙の朝刊によると、内閣府の原子力委員会は、日本が保有するプルトニウムの量に上限を設ける新たな方針を決定したという。
政府の掲げる核燃料サイクル政策の形骸化が強まるが、核不拡散の流れにつながるかもしれない。原子力が我々の社会の足元を崩すことのない確かな一歩になってほしい。
そんな思いで原子力関連の大きな話題を読み終え、4紙目を手に取った。
その記事は、地方紙の片隅にあった。
「東電、きょうからグッズ販売」
東京電力が、今日から福島第1原発(福島県大熊町・双葉町)構内のコンビニで、オリジナルグッズの販売を始めるという。
原発建屋がプリントされたクリアファイルが3枚一組で300円。
東電によるとグッズ制作の意図は「視察者の要望」という。
目を疑った。未だに廃炉作業が続く原発で、東電は何がしたいのだろう。
もはや福島第1原発は観光地になりつつあるのか。
同じく世界最悪の原発事故が発生した旧ソ連のチェルノブイリ原発は、観光ツアーが企画されているという。
たしかに、事故発生から30年以上が経ったいま、ツアーは風化を食い止める有効手段かもしれない。
一方で、福島はどうか。
復興庁のデータによると、今年6月14日現在で、福島県の県外避難者数は3万3622人。
今も故郷に帰れない人は3万人を超えている現実がある。
また、原発事故で町内の広い地域が帰還困難区域に指定されている浪江町が慰謝料の上乗せを求めた和解仲介手続きを、東電は6度も拒否している。この手続きは今年4月に打ち切られた。
廃炉作業が続くなか、住民と向き合わず、オリジナルグッズなどを作る余裕があるのか。
筆者が東電に問い合わせたところ、
「廃炉作業を見学した有識者や教育関係者から『記念品があれば』との声があり用意した。あくまで原価相当額で販売しているので利益はない」
との説明だった。見学者や東電には被災者の視点が欠如しているのではないか。
思慮が欠けた振る舞いに反感を覚える。
「視察者の要望」があった点も気になる。
以前、こんな光景を目にしたことがある。
宮城県石巻市の震災伝承施設で、語り部の方からお話を聞いていた時のこと。
突然、マイクロバスに乗った20名ほどの中年男性が団体でやって来た。
施設内に上がりこむやいなや展示されていた被災直後の写真を指差して「瓦礫だ、瓦礫だ」と声をあげた。
すると、私と話していた語り部の方が血相を変え、一行を怒鳴りつけた。
「元は人が住んでいた家なんですよ!軽々しく瓦礫と口にしないでください!」
団体客たちは一瞬ぽかんとした表情をして、そそくさと立ち去った。
あるいはこんなこともあった。
津波で200人近くの住民が亡くなった仙台市沿岸部の荒浜地区を訪れた時のこと。
慰霊碑に手を合わせていると、背後から初老男性に話しかけられた。
「写真を撮ってくれませんか」
どうやら記念撮影をしたいらしい。
気が進まなかったがカメラを受け取った。
すると男性は慰霊碑をバックに笑顔でピースサインをつくった。
呆れて何も言えなくなった。
慰霊や防災意識向上のために被災地を訪れるのは理解できる。
だか、物見遊山のような気持ちで被災地を訪れるのはいかがなものか。
被災地は断じて観光地ではない。
災害で人が亡くなり、家や故郷が失われた現場である。
それを念頭に置かねばならない。
だからこそ「オリジナルグッズ」などを販売する理由が皆目検討がつかない。
グッズ販売の一報は、この日の全国紙には見当たらなかった。
全国的な話題になった時、世間はどう評価するだろうか。
私たちの将来に大きな影響を及ぼす原子力の問題である。プルトニウムの取り扱いといった世界規模のマクロの課題とともに、足元の小さな問題にも注視していきたい。
参考記事:
1日付河北新報(16版)3面「福島第1原発視察に記念品?」
同日付河北新報オンラインニュース「〈福島第1原発〉視察に記念品?東電、グッズ販売」
https://sp.kahoku.co.jp/tohokunews/201808/20180801_63036.html
同日付朝日新聞朝刊(13版)1面「プルトニウム上限47㌧」
同日付読売新聞朝刊(13版)2面「プルトニウム削減明記」
2018年5月8日付河北新報 社説「原発ADR打ち切り 改めて問われる迅速な解決」
参考文献:
ふくしま復興ステーション HP 「県外への避難者数」
http://www.pref.fukushima.lg.jp/uploaded/attachment/276443.pdf