現場の認識 本当はどちら?

今月18日に発生した大阪北部の地震で、大阪圏の鉄道網は大きな打撃を受けました。復旧に長時間を要した路線が多く、都市部での地震についての課題を再認識することになりました。

中でも全線復旧に一番時間がかかったのが大阪モノレールです。運営する大阪高速鉄道は、23日から全線で運転を再開しました。しかし同日夜に実施した点検で、地震で緊急停止した車両の台車部分で部品が損傷していることが判明し、落下の恐れがあることから再度運行を取りやめる事態となりました。

25日付の朝刊を見ると、朝日・読売・日経の3紙とも社会面でこのことを報じています。朝日新聞と日経新聞が鉄道網や生活に絡めた記事の一部で扱っているのに対し、読売新聞は部品損傷の話を単独の記事として扱いました。

これらの記事によると、不具合があったのは走行中の揺れをやわらげるための部品で、台車に取り付けられた、直径12センチほどの円柱状のゴムブロック製緩衝材です。1つの台車に4つ取り付けられており、地震発生時に震源から近い場所を走行していた車両を点検していた際に見つかったといいます。部品の損傷が直ちに車両の走行に支障することは無いようですが、外れて落下すれば軌道下の歩行者らに危険を及ぼしかねない、との判断だったようです。

©読売新聞 落下する可能性があるゴムブロックの位置

©あらたにす 台車枠とゴムブロック、筆者作成

記事を読んでいるうちにいくつかの疑問が浮かびました。

・なぜ地震発生直後の点検で緩衝材を対象としなかったのか
・損傷はすべて地震によるものなのか
・緩衝材の劣化による寿命と、交換周期はどのくらいのものなのか

そこで大阪高速鉄道に直接問い合わせたところ、技術部車両課の方が以下のように返答してくださいました。

・地震が発生した当日はすべての車両を車庫に取り込めず、十分な点検ができなかった。
・緩衝材は通常、台車を取り外さなければ見ることができず、日々の点検の対象ではない。今回も当初は行っていなかった。
・4年に一度の定期検査と、2年に一度のタイヤ交換で、緩衝材の経年劣化を確認する機会がある。
・緩衝材の交換周期は8年で、8年以内でも不具合が見つかれば交換する。
・今回複数の車両で同様の損傷が見つかったことから、経年劣化ではなく地震によるものであると考えている。

改めて新聞の記事を読んでみると、情報の食い違いを感じました。朝日新聞は緩衝材の検査を「4年ごと」、読売新聞は地震直後の点検に緩衝材を含めなかった理由を「外からは見えず、走行自体に影響がないため」としています。しかし、経年劣化の確認はどんなに長くても2年周期であり、点検できなかった理由も、普段の点検と同じく台車を外さなかったことによるものです。各新聞社は発表資料を中心に取材し、記事を書いたのでしょう。残念ながら会見の発表資料は入手できませんでしたが、どうやら会社内で認識の違いがあったように思えて仕方がありません。真相解明を見守りたいと思います。

参考記事
25日付 朝日新聞朝刊(東京14版)34面(社会)「大阪モノレール 部品損傷で運休」
25日付 読売新聞朝刊(東京14版)30面(社会)「大阪モノレール再び運休 震度6弱 部品落下の恐れ」
25日付 日本経済新聞朝刊(東京★14版)39面(社会)「市民生活への影響続く 大阪北部地震 1週間」

参考資料
「大阪モノレール車両と運輸管理システム」、『日立評論』1991年3月号、日立評論社
「モノレール車両用台車およびモノレール車両」(astamuse)