理想だけでない憲法を

皆さんは、世論調査や世論をどのように捉えていますか。佐藤卓己著の「輿論と世論」では、議論と吟味を経て練り上げられた「輿論(よろん)」に対し、「世論(せろん)」は情緒的な感覚であり、両者が混同してしまっている現実があると主張しています。現在安倍内閣が進めている憲法改正案においても、感情が及ぼす影響は大きいといえますが、それを抑制する姿勢も必要になりそうです。

今朝の読売新聞は、世論調査の結果をもとに、憲法の特集を組んでいます。憲法改正に賛成派は55%で、反対派の46%を上回りました。分析の中で特に気になったのは、「感情温度」という小見出しです。記事によると、内閣支持層では賛成派が64%となったのに対し、不支持層では反対派が上回っています。安倍首相に対する感情も、影響があるといえます。親安倍層では改正賛成派が6割を超えるなど、好き嫌いの感情と憲法改正の賛否が結びついていることがうかがえる、と説明しています。

新聞ごとに調査の結果が異なることにも注意が必要だと感じました。読売新聞では憲法9条を改正し、自衛隊の存在を明記することについて賛成派が過半数を超えています。一方、朝日新聞社が3月に実施した調査では、賛成が33%、反対が51%と記されています。一般的に質問の仕方や選択肢の違いなどで、かなりの差が生まれるといわれています。数字だけをうのみにせず、質問の内容や賛否それぞれの考え方についてしっかり確認していく必要がありそうです。

憲法をどう捉えるか、という議論も興味深いものです。安倍首相は今年1月の施政方針演説で「国の形、理想の姿を語るのが憲法」と述べたのに対し、立憲民主党の枝野代表は「主権者が政治権力を制限するルール」としました。調査では、「国の形や理想」のイメージのほうが強いと答えた方が6割に上っています。一方で、憲法の規定と政治や社会の実態との間で矛盾を感じることがあると答えた人は79%もいました。

私は、枝野代表の立場を支持しています。とりわけ、憲法の平和主義は守り続けていくべきものであり、理想だと考えています。ですが、自衛隊の姿や世界を取り巻く安全保障環境が大きく変わってきた現実もあります。問題は複雑であり、時世とともに環境が変化するからこそ、9条も変える必要はあると思いますが、今の9条改正案には納得できません。

護憲、改憲といった二項対立の議論や、理想だけを追求したために空洞化した憲法を論ずるだけでは何も生まれないでしょう。日本の平和主義と国際的な平和をどうとらえるのか。様々な事態が起きた時にどう判断し、どこまでの範囲を自衛隊の役割とするのか。国外に与える影響を予測し、どう対処するのか。解釈や運用の幅を持たせることのメリット・デメリットは何か。

自衛隊違憲論や憲法改正を検討する場合、このような点に着目していくべきではないでしょうか。感情や空気だけに流されることなく、じっくりと改正案を精査し、国民全体で論議を進めていかなければなりません。

 

参考記事

30日付 読売新聞朝刊 12版 12、13面 「憲法 論議に関心 改正われる賛否」

3月19日付 朝日新聞デジタル 「朝日新聞社世論調査 質問と回答」