「閉鎖が辛いのは私だけでしょうか。」
筆者が働くアルバイト先の雑記帳に、昨日書かれたひとことです。
政府は、漫画や雑誌、アニメなどを無料で配信する「海賊版サイト」への接続を強制的に遮断するよう、国内のプロバイダーに要請する方針を固めました。こうしたサイトには以前から違法性が指摘されていました。漫画家など作者や出版社といった作り手に入る利益が正当に払われないなどの問題をはらんでいるのです。
菅官房長官は11日の記者会見で、漫画家などに入る収益が海賊版サイトに奪われるのはコンテンツ業界の根幹を揺るがしかねない、として早急な対策に意欲を示しました。先月19日には「あらゆる方策の可能性を検討している」と話していたので、1段階進んだのではないでしょうか。
サイトの遮断はこれまで、児童ポルノに該当するサイトのみ適用されてきました。この場合、憲法の定める検閲の禁止や通信の秘密との関係については、人格権の侵害を根拠に例外とすることが出来るとされています。これは多くの専門家らが集まって議論を重ねた結果であり、多くの時間を費やしたうえでの対策でした。
今回の「海賊版サイト」での接続禁止には問題が山積みです。はやくも懸念の声が上がっています。情報法制研究所、インターネットコンテンツセーフティ協会、コンテンツ文化研究会、モバイルコンテンツ審査・運用監視機構、インターネットユーザー協会、主婦連合会といった各種の団体が、指定サイトの接続を遮断することは憲法の規定に抵触するおそれがあるとして、それぞれ声明を発表しています。海賊版サイトは許されるものではなく早急に対策すべきとしながらも、行政をあずかる政府が違法性を判定する行為は検閲にあたるというのです。
それに海賊版サイトと関係のないページがブロックされてしまう可能性もあります。サイトを遮断する「DNSブロッキング」では、指定サイトのアドレスを登録することで簡単にデータの流れを止めることができるとされています。しかしその反面、関係の無いサイトまで締め出す「オーバーブロッキング」が起きたり、逆にすり抜けが容易であったりという弱点もあります。また、他のアドレスで同様のサイトが立ち上がる「いたちごっこ」が起きかねません。
海賊版サイトについては、筆者の周りでも昨年の秋からたびたび話題になっていました。違法性があっても、無料で公開されていることから手を伸ばしてしまうというのが利用する側の本音です。冒頭のひとことも、結局はおなじこと。しかし、作品に対価を払うことでその価値を認めるのは、社会の基本ルールのはずです。海賊版サイトと規制の不毛ないたちごっこを防ぐうえで、読み手側も重い責任を負っているのではないでしょうか。
参考記事:
11日付 朝日新聞朝刊 (東京14版)1面「漫画海賊版サイト、遮断へ 内閣府が検討 「通信の秘密」侵害の懸念 」
12日付 日本経済新聞朝刊 (東京13版)4面(政治)「海賊版サイト 閲覧を遮断 漫画やアニメを無断で掲載」
同日付 読売新聞朝刊 (東京13版)2面(総合)「「海賊版サイト」遮断を要請へ *政府、著作権保護」
同日付 朝日新聞朝刊 (東京13版)31面(社会)「海賊版サイト遮断に反対」