オープンなものづくりに期待

みなさん、日本酒は飲みますか。お酒が苦手な人にとっては、ビールや焼酎よりも酒らしさを感じる飲み物なのかもしれませんが、私は好きです。まろやかで芳醇な口当たりのもの、辛口ですっきりとした後味のものなど、味わいは繊細で奥深いです。その魅力を生かし、国内外で、フレンチやスペイン料理などとの多様なペアリングが試みられています。

ここまで書いていたら急に飲みたくなってきて、東京メトロ虎ノ門駅そばの「日本の酒情報館」に行ってきました。館内には酒器や酒造りの道具が展示されています。ここの目玉は、なんといっても全国のお酒が一杯100円から試飲できることです。銘柄はいつも入れ替わります。今日飲んだのは、山口県酒井酒造の「ねね」。マスカットのように甘くさわやかな、しかも炭酸を生かした発泡性を持たせることで日本酒独特の匂いはやわらかくなっています。女性に試してほしいお酒です。

酒好きな私も、さすがに自分で一升瓶を買って飲むことはしません。バーや居酒屋で、少しずついろんな銘柄を楽しむのがちょうどいい。量より質、しっかり味わいたいという人には、そういう消費スタイルが合っているのかもしれません。

今日の記事で取り上げられているのは、東京から秋田に戻って酒蔵を継ぎ、経営を盛り返した5人の男性です。彼らは「NEXT5」として知られています。元々は別々の蔵を継ぎましたが、技術・生産データの公開や共有に乗り出しました。それらは、酒造りの職人であり最高責任者の「杜氏(とうじ)」によって秘されていたといいます。2010年には、年に一度当番の蔵に集まり、分担して一つの酒を醸す5蔵の「共同醸造」が始まっています。

秋田県の出身なので「新政」や「春霞」など、それぞれの銘柄は知っていますが、造り手に変化が起きていたことは知りませんでした。記事で紹介されたようなオープンな製品づくりは、後継者不足にあえぐ伝統産業を支えるヒントになるかもしれません。

昨年お話を聞いた、埼玉の鬼瓦職人の言葉を思い出します。「師匠は自分からはあまり教えてくれなかった。今も図面を描くときは苦労することがある」。他社との競争において、技術が漏れることは命取りになったからです。

そして、こうも言いました。「伝統だから必ず守らなければならないというのは違うと思います」。伝統とは、それが重んじられ、自然と受け継がれてきたもの。守ることに躍起になっていては、それは本来の伝統とは別物なのではないか。彼が伝えようとしていたことが、少しわかったような気がします。

参考:13日付 朝日新聞朝刊(東京13版)4面(経済)「事業継承 小さな酒蔵5人の復活劇」