自分を救うための「Me Too」

口外すれば仕事で不利になる。恥をかく。世間が耳を傾けるはずはない――。人々を縛り付ける神話は様々なかたちで存在していたのかもしれない。

今日の天声人語は、いまSNSで広がっている「Me Too」という言葉について書いています。「セクハラや性的暴行を受けてきた女性たちが『私も』と投稿すれば、人々に問題の深刻さを知ってもらえるかもしれない」という一人の女性のアイデアが、長い沈黙から多くの人々を解き放ちました。女性による告白が多い印象がありますが、性暴力の被害を受けるのは女性だけではありません。私もあなたも、被害者にも加害者にもなりうる。もはや当事者だけの問題ではないのだということを、このシンプルなキーワードは訴えているように感じます。

著名人の「Me Too」が大きく取り上げられていますが、ツイッターで「#MeToo」と検索すると、一般の人の投稿もたくさんありました。「学校から帰る途中に、道を聞いてきた男に胸を触られた」「体を傷つけられた時も私謝ってる」など、つらい記憶を綴っています。このキーワードに後押しされた人もいれば、まだ言えない、言いたくないという人もいるはずです。

私もストーカー被害に遭ったことがあります。その頃は、勘違いされるような態度だったのかもしれない、と自分で自分を責めていました。そんな時に友人が言ってくれた「あなたは悪くない」という言葉が大きな支えになりました。自分がされたことを言いたくても言えない状況は、心の傷を深くしていきます。どんなに昔のことでも、忘れるわけがないのです。「私も」のメッセージは、多くの人にとっては相手を責めるというより、自分を救うための告白なのではないでしょうか。

これだけNOの声が大きくなっても、社会から今すぐすべてのセクハラがなくなることは難しいでしょう。被害者だけでなく、より大勢の人を巻き込む必要があります。名指しされた人を責めるのは簡単ですが、どうしてそんなことをしてしまったのかを注意深く見ていかないと、根本的な問題は解決しないと自分の経験から気づきました。加害者へのアプローチが、加害者も含めて傷つく人を減らすと思っています。

参考記事:26日付 朝日新聞朝刊(東京14版)1面(総合)「天声人語」