日本電産は16日、京都市内で定時株主総会を開き、2020年までに残業時間をゼロにする働き方改革について説明しました。その中で永守重信会長兼社長は「この1年で残業は半分に減った」と述べ目標達成に手応えを示しました。
現在、日本では政府が旗振り役となった働き方改革が一種のブームになっています。昨年9月、内閣官房に設置した「働き方改革実現推進室」の開所式で安倍総理は「私が先頭に立って取り組む決意だ。『モーレツ社員』という考え方自体が否定される日本にしたい」と語り、「働く人々の考え方を中心にした働き方改革をしっかり進めていきたい」と強い意欲を示しました。
しかし、最近の「働き方改革ブーム」に少なからず違和感を覚えてしまいます。そもそもこの改革は、多様な生き方や働き方を認め、家庭やプライベートの時間を大切にしようとするもので、最終的に労働効率を上げるのが狙いです。確かにその趣旨に異論はないのですが、そもそも今の経済大国・日本があるのは「モーレツ社員」のおかげでもあるのです。
彼らの家庭や家族をも顧みず会社や上司の命令のままに働く姿は、戦場での兵士に例えられたほどで、戦後の高度経済成長を支えました。本来の働き方改革というのは多様な働き方を認めるというものです。希望するなら育児に専念するために在宅で仕事するも良し、とにかく仕事一筋で、そこに頑張りやりがいを見出すのも良し。そうした人々を互いに認め合うのが正しい姿だと感じます。今は前者がもてはやされ、後者は時代遅れだと批判する方向になっていないでしょうか。
今の日本には労働生産性の低さという課題もあります。OECD諸国の生産性を見ても、日本は20位前後で推移し、トップのアイルランドと比べると半分ほどにとどまっています。機械に任せる仕事は機械に任せ、書類主義をなくし、効率よく仕事を進めるところは進める。この重要性は認識しなければなりません。
もちろん、上司の目をはばかって早く帰れず会社に居残るといった無駄な残業はなくなるべきです。しかし、プライベートな生活を犠牲にしてまでも企業に貢献する姿勢が今の社会の礎であることを忘れてはならないと思うのです。
17日付 読売新聞朝刊(14版)8面「日本電産 残業ゼロへ手応え 永守会長兼社長「1年で半減した」」