現地時間8日にイギリス下院総選挙が行われました。開票の結果、保守党は定数650の内、318議席を占めるにとどまりました。前回から13議席も失った党首のテリーザ・メイですが、9日、エリザベス女王の許可を受けた後に組閣を発表し、「EU離脱交渉を主導していく」決意を強調しました。ロイター通信によると今回の選挙戦で保守党は、過半数を獲得できなかったため、EU離脱交渉での立場が近い北アイルランドのプロテスタント系民主統一党(DUP)と「重要議決の際に保守党を支持する協力協定(confidence and supply)」を結ぶことを検討しているようです。
今回の選挙で興味深かったのは、対抗馬である労働党が前回から29も議席を増やし261議席を獲得したことです。党首は左派路線の傾向が強い(Hard left)とされるジェレミー・コービン氏です。2015年に労働党党首に就任してから、不信任決議案や党内部からの批判などの困難に直面してきましたが、根強いコービン支持層もあり人気は落ちませんでした。
コービン氏が熱狂的に支持されている理由としては、キャメロン政権下で進んだ緊縮財政への国民の不満が高まっていることが挙げられます。既存の政治家達とは一味違う、大学出でない彼に多くの人々が大きな期待を寄せているからでしょう。彼の政策には、実現が困難なものも含まれています。党首になってからは、潜水艦発射弾道弾ミサイル「トライデント」の更新を巡り、この機会に廃止し貧困問題に予算を当てるべきだというもの(後に党内議論に敗れて同意)や南ウェールズの炭鉱再開(後に支持基盤の反対により撤回)などがその一例として挙げられます。公的支出を増やし、保守党政権による医療や教育などの予算不足を解消する政策も財源が不透明な部分があり、実現できるのかが争点になっています。
総選挙を前にBBCのTV番組「Question Time」に、メイ氏とコービン氏が別々に出演し、それぞれ聴衆から厳しい質問を浴びせられました。その中で、「労働党の選挙公約は実現可能なのか?それともサンタクロースへのお願いの手紙なのか」との問いが出ました。コービン氏は前向きな返答をしていましたが、もし次回以降の選挙でコービン氏が政権を取ったとしたら、党内の論争や予算などの制約からより現実的なものへと修正が必要になってくるでしょう。そうなってきた時に、彼の支持率が保てるのかが不安です。
近年の選挙戦では、特に米大統領選のバーニー・サンダース氏やコービン氏など魅力的な候補者たちが既存の政治を壊す存在として注目を浴びています。そんな彼らが政権を取るのは不安ですが、彼らの存在が対立候補の政策に良い影響を与え、結果としてより中道路線に収斂したならば、理想的な政治を作り出すのかなと夢想している今日この頃です。
11日付 読売新聞朝刊(東京14版)2面(総合)「メイ氏「離脱交渉 日程通り」」 関連記事 7面(解説)
9日付け ロイター 「北アイルランドDUP、保守党との協力検討=英スカイ」
3日付け BBC news Japan 「【英総選挙】 メイ首相とコービン党首、BBC番組参加者から厳しい質問」