象徴天皇の在り方を考える

 子どもの頃、父の実家で一枚の「家族写真」を見つけました。座敷の鴨居に飾られていたその写真に収められていたのは、昭和天皇ご一家の姿です。当時は、なぜこんなところに皇室の写真を飾っているのか不思議に思いました。両親によると「昔は飾る家庭がけっこうあった」ということです。「自分が子どもの頃からあった」という父は、「日本人が皇室に対して自然に抱いてきた敬意の表れのようなものだったのではないか」と教えてくれました。

 天皇陛下が昨年8月に退位の意向をにじませる「お気持ち」を表明してから、1年が経とうとしています。今月9日、ついに退位特例法が成立しました。今回の特例法は一代限りの退位を定めたものです。朝日新聞によると、政府は2018年12月下旬のほか19年3月末を退位日の候補として、本格的な検討作業に入りました。これまで皇族の減少への対応策や、女性皇族が結婚後も皇室に残る「女性宮家」の創設などについても意見が交わされてきました。

 各紙の関連記事において、「象徴天皇の在り方を議論していく必要がある」という意見がいくつか見られました。今回「お気持ち」表明をきっかけに政治が動いたことで、今後も天皇の意思で国家の重大事が左右されれば、天皇の国政関与を認めない憲法に違反するのではという懸念があります。さらに、憲法がいうところの「象徴」の意味はいまだにぼんやりとしたままです。

 ただ、国民の多くは、戦没者の慰霊や被災地の慰問などで常に国民と同じ目の高さで歩まれてこられた足取りこそ、象徴天皇のあるべき姿を体現していると感じているのではないでしょうか。各紙の年表で両陛下の歩みや平成の時代を振り返ると、近年は病と闘いながらも「国民に寄り添う」という一貫した姿勢で公務に取り組んでこられた両陛下に、改めて尊敬の念が湧いてきました。
 
 今後どんなに時代が移り変わっても、象徴天皇制のもとで即位した最初の天皇である陛下が示されてきた基本的な姿勢が継承されることを、私は望みます。

 余談ですが、少し前に、毎日新聞に三笠宮彬子さまの「京都・ものがたりの道」という連載が掲載されていました。京都の歴史や暮らしについてだけでなく、京都府警や側衛の人々とのやり取りについても細やかに書かれていて、皇室への親しみを感じるきっかけになりました。彬子さまは連載の中で次のように書かれていました。

 「彼らの仕事を知れば知るほど、自分が皇族であることの意味というのを考えるようになった。・・・私のために命を懸けてくれる人が全国にいる。その人たちが『ああ、この人を護れてよかった」と思ってもらえる存在であるために、自分はどうあるべきなのか。それがようやく心の中に落ちてきた。・・・」

 論じるべき点は多々ありますが、まずは、皇族の方々のお気持ちにもっと触れてみたいと今は思っています。

参考記事:
10日付朝日新聞朝刊(東京14版)1面(総合)「象徴天皇 初の退位へ」
関連記事2、4、10、11、17、39面
同日付 読売新聞朝刊(東京13版)1面(総合)「天皇退位特例法 成立」
関連記事2、3、4、12、14~17、39面
同日付 日本経済新聞(東京13版)1面(総合)「天皇退位特例法が成立」
関連記事1、13、14、15、42、43面
(3月19日付毎日新聞朝刊文化面「京都・ものがたりの道」本社版)