「完全給食」で食の格差解消を

 忙しくて食事をおろそかにしてしまった時、私が思い出すのは「You are what you eat.(あなたはあなたが食べるものでできている)」ということわざです。私たちが口にするものは、身体や心の健康に大きく関わっています。私の場合、現在の健康な体の基礎をつくってくれたのは母の料理と、学校給食でした。

 小・中学校とも、通っていた学校では給食を実施していました。地元秋田県の郷土食「納豆汁」や、特産の「シシリアンルージュ」というトマトを使ったカレーなどが登場する日もあり、栄養バランスに優れているだけでなく地域の食を学ぶ機会にもなっていました。にんじんやシシャモなど、苦手だった食べ物は給食で克服しました。

 義務教育では、どこの学校でも給食を実施しているものと思い込んでいましたが、実情は異なるようです。朝日新聞が全国主要74市区の公立中学校を対象に、主食、おかず、牛乳のすべてを提供する「完全給食」の実施率を調査しました。その結果、59市区が100%と回答した一方で、50%未満のところもありました。横浜、大津、川崎、高知、神戸の5市です。未実施の理由には、財政的余裕がないことや弁当の定着などが挙げられています。なかでも横浜は、なんと実施率0%でした。横浜市では家庭弁当を基本としながらも、事前予約による配達弁当や、学校ごとに当日注文できる業者弁当の手配を行っています。

 12市では、持参の弁当か民間業者などが配送する給食かを選ぶ「選択制」が採用されているそうです。ただ、費用の前払いや予約が必要なため、「手間がかかる」という指摘があります。困窮家庭向けの就学援助の対象にしていない自治体では、親の昼食代負担が増えてしまいます。

 高校の3年間、毎日の弁当づくりで母には苦労を掛けました。専業主婦でしたが、これが働いているひとり親ならばもっと大変だったはずです。また弁当の中身は家庭によって異なるため、人によって栄養バランスの偏りなどが生じることも懸念されます。我が家はかぼちゃの煮物と焼き鮭が定番のおかずでした。凝った料理はありませんでしたが、赤・緑・黄と彩りを大切にして作ってくれたことに感謝しています。

 大人になってからも健全な食生活を続けていくための土台が、若い頃の食習慣にあります。「完全給食」や給食費の就学援助を求めて声を上げ、行政を動かしていくことが、食の格差を解消する第一歩になるのではないでしょうか。

参考記事:
6日付 朝日新聞(東京14版)3面「中学の給食 実施率に差」