高齢者の「生活の足」 確保のために

 祖父が運転する車に揺られながら、私と姉は内心ひやひやしていました。

 3月に祖父母に会いに福島県二本松市を訪れたときのことです。祖父が駅まで迎えに来てくれました。今もスバルの青いレガシーを乗りこなす、元気な84歳です。しかし、お年寄りによる自動車事故が相次いでいる状況を思い出し、急に不安になりました。

 後部座席からスピードメーターに目をやると、時速80kmを超えることもしばしば。日も暮れて辺りは真っ暗でした。白内障の手術を受けて「ものがよく見えるようになった」と話していた祖父ですが、油断は禁物です。時折「けっこうスピード出てるね」などと運転席に声を掛けながら、家に着くまで気を休めることができませんでした。

 高齢者の認知機能検査や更新時の講習の拡充、さらには免許の返納を勧める動きが広がっています。記事では、交通機関の運賃割引や、例えば大分県ではメガネ購入費の割引など、さまざまな特典を設けて返納を後押しする自治体の取り組みを紹介しています。一方で、公共輸送が十分に行き渡っていないため、車への依存度が高い地域ではそう簡単でないことも指摘しています。
 
 運転者や通行人の安全が第一ですから、事故を減らすための取り組みが進められることには賛成です。ただ、「危ないから運転すべきでない」とハンドルを握る高齢者を安直に非難することはできません。私の祖父のように、車を運転し続けられることは自信にもつながりますし、行動範囲が極端に狭くなることもありません。とはいえ、自らの運転技術や判断能力の「過信」になってもいけません。

 車に代わる移動手段として、無料や低額のコミュニティバスを運行している地域があります。私の地元の秋田県横手市には一般200円の循環バスがあり、病院や公共機関、買い物施設などを回っています。自動運転や、ペダルを踏み間違えた時に急加速を抑制する装置の開発など、技術の進歩も注目されています。車を手放した人の生活を支えながら、運転を続ける人が周囲に迷惑を及ぼすことなく安全に車を走らせられるように支えていく社会を整える必要があります。

 
参考記事:
29日付 朝日新聞 14版 5面「教えて! 高齢ドライバー④」