近くて遠い国 大統領選の行方は?

「前回は仕事で行けなかったけれど、今回の選挙は必ず行きます。たとえ仕事があっても、行くと決めています。」

 先日韓国へ旅行に行った際、ツアーの若い女性ガイドさんが話していました。前大統領の罷免による混乱を受け、国民の政治に対する関心の高まりがうかがえます。大統領選に向けた選挙運動が17日から始まりました。

 朴氏の罷免を受けて与党の支持が低迷する中、野党が優位の情勢です。選挙では「2強」対決が予想されています。その一角が、文在寅(ムン・ジェイン)氏。左派といわれる最大野党「共に民主党」の元代表で、廬武鉉元大統領の秘書室長を務めた経験もあります。一方の安哲秀(アン・チョルス)氏は、異色の経歴の持ち主です。医師時代にコンピュータウイルスソフトを開発し、国民に無料で配布しました。後に起業し、教育や雇用喪失の慈善団体も設立しています。ただ、野党「国民の党」の議席は少数にとどまり、連立を余儀なくされるとみられています。政治指導者としての資質には不安もあります。

 当初は文氏の独走かとみられていましたが、安氏が追い上げを見せています。米朝の対立激化により、北朝鮮情勢への対応が大きな争点として急浮上したからです。安氏は安全保障重視の姿勢を鮮明にし、保守・中道層の取り込みを図っています。米軍の「高高度迎撃ミサイルシステム(THAAD)」についても配備を認める姿勢に転じました。一方の文氏ですが、当初こそ北朝鮮には融和的な立場をとっていたものの、世論を意識して強い姿勢を表明し始めました。また、日本に対しては、両候補ともに厳しい姿勢が目立っています。

 ツアー中、ガイドの方に大統領選の行方を尋ねると、政治腐敗からの脱却と若者の雇用政策が重要なカギを握ると教えてくれました。加えて「政治的手腕は未知数ですが、安氏は国内政治に新しい風を吹かせてくれると期待を寄せています」と熱心に答えていたのが印象的です。

 国民の多くは新しい大統領に、これまでの社会の閉塞感を打ち破ってほしいという大きな希望を抱いているように感じました。朝鮮半島に緊張が走る中、難しいかじ取りを迫られている韓国。選挙結果は歴史認識や領土問題など多くの課題を抱える日本にも、大きな影響を与えるでしょう。59日の選挙日に向けて、しっかりと注目していきたいものです。

参考記事:各紙「韓国大統領選」関連面