中小企業の挑戦 炊飯器も世界へ

 どんなに忙しくてもきちんとごはんを食べてもらいたい。ふっくらと炊き上がり、冷えても美味しいものを作りたい。単身赴任の長い父を思い、母は家電コーナーに行きました。すると炊飯器や鍋が充実していてどれにしようかと迷ってしまいました。10万円前後の高級炊飯器は大手家電メーカーが経験と技術を集結して開発に取り組む激戦区です。悩むのもうなずけます。

 この市場に昨年12月、愛知ドビー(名古屋市)の「バーミキュラ」が参入しました。これは鋳物ホーロー鍋とIH調理器を組み合わせた炊飯器です。もともと愛知ドビーは老舗鋳造企業。織機の一種であるドビー機を製造してきました。繊維産業の衰退に伴い、職人が誇りを持てる製品を作ろうと2006年から鍋づくりに着手していました。この分野への異業種からの参入は珍しいことかもしれません。

 愛知ドビーの鍋は水を加えない無水調理などで人気になりました。1年以上の予約待ちになったこともあります。そんな鍋の技術を生かした家電製品が登場したのです。高級炊飯器「ライスポット」の値段は税別で7万9800円。決して安くはないですが、受注は好調のようです。

 米の品種によってツヤ、香り、粘りなどに細かい違いがあります。炊飯器、カマドといった炊き方で味が変わります。毎日食べるものだからお米にはこだわりたい人も多いのではないでしょうか。いつか大人になったら少し高額であっても、炊飯器なら手にしてみたいものです。

 中小企業もアイディアや技術力で新たな可能性に挑戦することができます。愛知ドビーは欧州市場を狙うようです。海外でも食に対する意識は高まっています。ものづくりで培った日本ブランドは世界でも通用するはずです。炊飯器は万能で蒸し料理などいろいろな料理が作れます。米に馴染みがない国で炊飯器を見かける。そんな未来があってもいいのではないでしょうか。

日本経済新聞 2月6日付 11面(新興・中小企業面)「地域発世界へ 愛知ドビー 高性能鋳物ホーロー鍋」