常磐線よ、再び笑顔を

改札口で大切な人と待ち合わせる。試験がうまくいかず、駅の構内にたたずむ。駅には、人ぞれぞれのたくさんの思い出が詰まっています。再び思い出を作れる喜びやスタートをする爽やかな気持ちに包まれた常磐線の駅をとりあげます。

JR常磐線は東京・上野を起点に千葉県北西部、茨城県、福島県浜通りを経由し宮城県の岩沼へ至る路線です。しかし、原発事故や東日本大震災の影響から一部区間では不通が続きます。そんな中、福島県南相馬市は12日、避難指示区域の大部分を解除し、不通区間だった原ノ町―小高駅で5年4か月ぶりに運行が再開できることになりました。

私が常磐線小高駅に注目し始めたきっかけは一つの読売新聞の記事でした。南相馬市小高区はほぼ全域が福島第一原発の半径20キロ圏内に入ります。そんな街にある老舗旅館の女将の話です。電車が到着することがなくなり、人影の消えた街に通い、駅前のロータリーに花を植えているというのです。いつかこの駅に明るさが戻る日が来るのを願い、スクラップに加えました。

国は住民帰還のめどを2016年4月としてきました。しかし、市民説明会では「除染が不十分」「積算線量年間20ミリシーベルト以下という解除基準は高すぎる」「支援策や賠償を続けるべきだ」など、さまざまな意見や要望が飛び出し、震災と原発事故が地域に残した傷の深さを物語っています。市の調査に「戻りたい」と答える住民は年々減っているそうです。もちろん、電車が再び通ったからといって活気を取り戻せるわけでもありません。除染の徹底や支援策の継続、拡充を含め課題は多くあると思います。

それでも少しずつですが、電車の再開通とともに帰還する人がでています。12日付けの夕刊の記事では、南相馬市原町区のアパートに避難中の高校1年の女子生徒(15)が紹介されています。今月中にも家族一緒に小高区の自宅へ戻る予定で、「通学するには遠くなるけど、やっぱり小高がいい。」と笑顔で取材に応じていました。

列車で運ばれるのは人やモノだけではありません。一緒に思いも乗せているのです。JR東日本は2020年までの全線開通を目指しています。こうした光景が1日でも早く広がっていくことを願います。

 

参考記事:13日付 読売新聞 朝刊 社会面 「常磐線一部再開」

2016年2月1日 読売新聞 夕刊 「【大震災】福島の宿 笑顔の再出発」