憎しみの連鎖を断ち切りたい

また、悲劇が起きました。米南部テキサス州ダラスの中心部でデモの警備をしていた警察官が銃撃され、5名の命が奪われました。この事件の引き金と見られているのは、ルイジアナ州とミネソタ州で相次いで起こった警官による黒人男性の射殺事件です。ミネソタ州の事件では、状況を撮影した動画がフェイスブックで投稿され、拡散されました。抗議の声がアメリカ全土にひろがり、各地でデモが行われていました。

事件の全容はまだ明らかになっていませんが、犯人は「白人、特に白人の警察官を殺したかった」と語り、事件への報復をほのめかしています。筆者は強い憤りを感じるとともに、悲しみを拭いきれません。多くの人々がデモという非暴力な形で抗議の意を示したにも関わらず、銃の暴力という誤った手段によって罪なき命が奪われたからです。憎しみが、憎しみを生む最悪の結果を招きました。

アメリカ社会に根付く人種差別が背景にあります。しかし、かつて公民権運動の先頭にたって、黒人の人権を訴え続けたキング牧師はこのように語っています。

「われわれは、力は力を生み、憎しみは憎しみを生み、強情は強情を生むことを、知らなければならない。それは結局下降螺旋であり、究極的には万人の破滅に至るのである。だからだれかが宇宙における憎悪の連鎖、悪の連鎖を断ち切るだけの良識と道徳心を持たなければならない。そしてあなたがたは愛によって、それをするのである。」

ここでいう愛とは自分と異なる他者を理解することであり、それを受け入れるということです。

大切なひとを失った悲しみや、アイデンティティを傷つけられた痛みはそう簡単に消し去れるものではないでしょう。憎しみを暴力に変えることは容易です。けれどもそこからは何も生まれません。また新しい憎しみを、悲劇を生むだけです。憎しみを断ち切る勇気が必要なのだと思います。

それは譲歩するという意味ではありません。私たちにできることは、銃や剣ではなく、ペンや肉声という武器を使って運動を続けることです。インターネットを用いて世界中にメッセージを発信することもできます。どうか勇気を出して、声をあげることをやめないでほしいと思います。そして社会全体が、その声と向き合いながら少しずつでも前進していけると信じています。

今、世界ではマイノリティーや人種、宗教を巡って事件やテロが相次ぎ、憎しみの連鎖が増幅しています。「どうすれば憎しみの鎖を断ち切れるのか」という課題が、全人類に突きつけられていると思います。長い歴史の上に私たちが存在するからこそ抱えた、様々な要素が複雑に絡み合った難しい問題です。筆者自身もその答えを探し続けていきたいと思います。

 

参考記事 9日付 各紙「米警官狙撃事件」関連面

「真夜中に戸をたたくーキング牧師説教集」 日本基督教団出版局