守りよりも攻めの農業を

大学進学を機に一人暮らしを始め、食材を買いによくスーパーを訪れるようになりました。TPPが発効すれば、どのような商品が店頭に並び、どのような価格で売られるのでしょうか。見当もつきません。いずれにしても消費者にとっては商品選びの幅が広がるというメリットがありそうです。

ついに投票まで一週間を切った参院選。ラストサンデーの昨日は各地で論戦が繰り広げられ、筆者も街で熱い舌戦を聞きました。これまであらたにすでは18歳選挙権や合区など様々な視点から参院選を見つめてきましたが、今日は主要争点の一つであるTPP政策について考えます。今回の参院選では、議員定数一人の「1人区」が全国で32と過去最高となりました。その多くが農業の盛んな地方です。農業者の票田が選挙の勝敗を握る大きなカギになると注目されています。

気になるのは賛否を巡る与野党の動きです。安倍政権はTPPを利用して、日本の農業を成長産業に育てることを強調しました。しかし現状は輸入による影響を受ける農家を手厚く保護する「守り」の策に徹しています。依然として所得の減少や離農を懸念する農家の不安を一掃できていません。一方の民進党は、コメや豚・豚肉など重要5項目の「聖域が確保できない」とTPP与党案を批判しています。けれども、それに代わる農政の具体的な案や措置は十分に示されていません。不安をあおるような言動を繰り返すだけでは有権者の心を掴むことはできないでしょう。

求められているのは、現地の実態を知り、農業者の思いをくみ取る姿勢です。そしてその声を反映させた具体案を示す。そんな踏み込んだ政策論争に期待します。また、現場の不安を取り除くために当事者に寄り添い、かみ砕いた説明をするという政治家の務めもしっかりと果たしてもらわなければなりません。

今朝の読売新聞一面には、農業界の新たな動きが紹介されています。国内市場で外国産牛との競争が激化するなか、北海道の「十勝のハーブ牛」はベトナムへの輸出を始めました。海外の嗜好に合わせた輸出向けの商品を作るという新たな試みです。TPPによる危機をビジネスチャンスに変えるという攻めの発想が伝わってきました。

農業は代々受け継がれてきた日本の伝統であり、世界に誇る文化だと考えます。農業人口の減少と高齢化、そしてTPP参入という壁が立ちはだかる今こそ、日本の農業は大きな転換を図るべきです。自由貿易協定が締結されれば、輸入だけでなく輸出を増やすチャンスにもなるはずです。長い目で競争力を高めるためにも、守りよりも攻めの態勢とその支援策が必要になると思います。ブランド食材の開発や企業との連携が進めば、若者を巻き込んだ事業の展開や経営戦略づくりも現実的なものになるでしょう。こういった視点を忘れずに、地方にとって死活問題ともいえる農業政策を見ていきたいと思います。

 

4日付け 読売新聞 朝刊 1.4面「現場から参院選2016 TPP」 

            日本経済新聞 朝刊 2面 「社説 16参院選 政策を問う」