北海道のほぼ中央に位置する歌志内市。
かつて良質な石炭の産地として発展したこの街は、国内石炭産業の斜陽化と軌を一にするように衰退しました。
最盛期に4万人を超えた人口は、2600人ほどにまで激減。今では全国で最も人口が少ない「市」になっています。
今月3日、4連休初日に現地を訪れました。
◯郷土館ゆめつむぎ
かつて石炭運搬に使われた旧国鉄歌志内線。終点の歌志内駅跡近くには地域の歴史を伝える郷土館があります。
館内には、採炭に使うコールカッターやエアーチェンソー、鉱夫を運ぶ水平人車など炭鉱で実際に使用された道具が多数展示されています。テレビや炊飯器、カメラなどの生活用品も陳列されており、炭鉱のまちとして栄えた当時の暮らしぶりを今に伝えています。
屋外ではゴールデンウィークイベントとして石炭ストーブ体験会が開かれていました。希望者はスルメやマシュマロを焼くこともできます。
周りには自然と人が集まり、石炭ストーブを使っていた当時を懐かしむ人の姿も見られました。ストーブをきっかけに思い出話に花が咲きます。
4万を超える人々をこの街に引き寄せた「黒いダイヤ」は、令和になっても人々を惹きつける魅力を放っていました。
◯こもれびの杜記念館
炭鉱の歴史は時代の流れと共に薄れていくのでしょうか。
旧空知炭鉱倶楽部「こもれびの杜記念館」は今月5日が最終公開となりました。老朽化が激しいためで、建物は今後解体される予定です。
北炭空知炭鉱の社員合宿所として作られたこの建物は、増改築を繰り返し、昭和29年以降は接待専用の倶楽部として多くの来賓を迎えました。
炭鉱全盛期の栄華を伝える建物として閉山後も保存されてきましたが、130年近くに及ぶ歴史の幕を下ろそうとしています。
◯今も生きる歴史
こもれびの杜記念館で2人の女性と挨拶を交わしました。近隣の自治体に住んでおり、1人は歌志内の出身だといいます。
しばらく雑談をしていましたが、道の駅に向かう予定だと話すと「同じ方向だから」と車に乗せていただきました。
歌志内出身の女性は車中、「この上には炭鉱の社宅があった」、「昔はもっと家があった」と炭鉱時代の街の様子を教えてくれました。
街と炭鉱の繁栄は、遠い昔の出来事ではなく、今も人々の記憶の中に生きているのだと実感しました。
別れ際には「夢を持ってね」とエールも。「日本一小さな市」は石炭ストーブのような温もりを感じられる街でした。
不定期連載でお届けする「〈特集〉旧産炭地の現在地」。かつて日本の発展を支えた「炭鉱のまち」の今の姿を、筆者の現地レポートをもとにお伝えします。
参考紙面:
4月25日付 朝日新聞朝刊23面(道内)「117自治体 消滅の可能性 10年前比で36が「脱却」 人口戦略会議」
参考資料: