「公害の原点」水俣病 現地で募る、環境省や国への不信感

「公害の原点」とされる水俣病は1日、公式確認から68年を迎えました。熊本県水俣市ではこの日に合わせて、水俣病犠牲者慰霊式が行われ、その後、伊藤信太郎環境相と患者ら8団体との懇談の場が設けられました。

筆者は、胎児性・小児性患者の皆さんのサポートとして参列しました。昨年も出席しています。本稿では、慰霊式に2年連続参列して感じたことや、問題となっている、懇談会における環境省の対応についてまとめていきます。

 

◾️水俣病と慰霊式について

水俣病は、昭和31(1956)年に公式確認された公害病です。株式会社チッソの工場排水に含まれたメチル水銀は、人間を含む多くの生命と豊かな環境を長年にわたって蝕みました。正確な人数はわかっていないものの、その被害にあった人は5万人以上と推計されます。

政治解決による救済策として水俣病特別措置法が2009年に施行されましたが、その対象や補償は限られたものでした。対象外の人らが国などに損害賠償を求め各地で提訴。昨年から現在まで大阪、熊本、新潟各地裁で判決が出ましたが、判断は分かれました。いまだ裁判は続いています。

(1日 筆者撮影)

慰霊式は、すべての生命に慰霊の祈りを捧げるとともに、環境再生・創造を誓うために開かれたものです。患者や水俣市民、木村敬熊本県知事、伊藤環境相、水俣市・熊本県・新潟県・環境省などの職員、原因企業チッソの木庭竜一社長ら約670人が参列し、祭壇に花をささげました。

 

◾️昨年と異なる点

毎年行われているこの慰霊式。大きな違いこそなかったものの、昨年と異なる点がいくつかあります。熊本県知事が、4期在任した蒲島郁夫前知事に代わり、木村知事となりました。また、環境大臣も、西村明宏氏から伊藤氏に変わっています。代表する人が変わることで、水俣病に対する熊本県や国の向き合い方も微妙に違ったようです。

県政の責任者として初めて慰霊式に参列した木村知事のスピーチは、水俣病問題に向き合う意志が感じられる、前向きなものでした。半導体産業の集積に伴う地下水への影響にも言及し、水俣病の教訓を踏まえ対策に取り組んでいく、と強調しました。

一方で、伊藤環境相の発言は、その場しのぎのものであるように感じました。今なお続く問題として水俣病を捉えておらず、話し方は、スピーチ原稿を初めて読んだかのようでした。毎年恒例だから出席しただけなのではないか、そう感じざるを得ません。

 

◾️伊藤信太郎環境相と患者らの懇談会

式の後、伊藤環境相と患者・被害者らの懇親会が開かれました。会における環境省の対応は、一部メディアやSNSで話題となっています。患者が発言している最中に、同省職員がマイクの音量を切って発言を遮ったのです。

事前に、各団体の発言時間は3分と定められていました。時間を超過し、司会役が話をまとめるよう促すと同時に、マイクの音声が切られました。発言を遮られたのは1人ではありません。患者側に反発の声が上がり、抗議を受けた同省職員は「事務局の不手際だった」と釈明を繰り返しました。その後、伊藤環境相は「(音声が切られていたと)認識しておりません」と発言し、会場を後にしました。

時間が限られているのは仕方がないことだ、というのはわかります。しかし、裁判でも認められているように、水俣病発生の責任は、チッソのみならず国にもあります。その国を代表している者として、伊藤環境相は、被害者の声に真摯に向き合うべきなのではないでしょうか。

 

慰霊式会場で伊藤環境相のスピーチに不信感を覚えた後に懇談会の様子を知り、結局うわべだけの発言だったのだ、と落胆しました。毎年、同じような謝罪と決意の繰り返し。懇談会での出来事は、水俣病を過去のものにしようとする環境省の意向が現れた、決定的な情景ではないでしょうか。

今なお、水俣病の症状に苦しむ被害者は多くいます。人の生命や豊かな環境を奪った責任を放置することは決して許されません。後世に伝え、同じ被害を繰り返さないために、水俣病にはずっと向き合っていかなければなりません。謝罪や決意が嘘にならないよう、国や熊本県、チッソには誠意のある対応をしてほしいものです。

 

 

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参考記事:

・5月5日付 日経電子版 「水俣病患者側発言中に音声切る 環境省職員、懇談の場で」 

・5月4日付 朝日新聞デジタル 「患者側発言中、マイク音切る 水俣病めぐる環境相懇談で国側」 

・5月3日付 朝日新聞デジタル 「『時間です』水俣病患者側の発言遮りマイク切る 環境相と懇談で国側」 

・5月2日付 日経電子版 「水俣病68年、犠牲者慰霊式 続く訴訟『混乱終結を』」 

・5月2日付 読売新聞オンライン 「水俣病被害者団体側の環境相への意見長引き、マイクの音量絞る措置…『話を聴く気ないのか』抗議」 

・5月2日付 朝日新聞デジタル 「『患者に向き合い、全面解決を』 水俣病68年迎え慰霊式」 

 

・5月2日付 西日本新聞me 「【音声データ】水俣病患者団体の発言中、環境省職員がマイク切る 環境相と懇談中、一時紛糾」

・5月2日付 西日本新聞me 「『教訓を心に留め県政に向かい合う』 初参列の熊本・木村知事」

 

参考資料:

・熊本県水俣市HP 令和6年度水俣病犠牲者慰霊式の開催について(お知らせ) (最終閲覧:5月5日)

・全国知事会HP 歴代公選知事名簿(都道府県別)熊本県 (最終閲覧:5月5日)