4分の1の処方箋応じられず〜能登半島地震から2ヶ月〜

能登半島を中心に最大震度7を観測した地震から今日で2ヶ月が経ちます。石川県の南部に位置する金沢市周辺は今までのような暮らしが戻りつつあります。市内の商業施設などが観光客数の回復を望んでいる一方で、県北部にある輪島市、珠洲市、七尾市、志賀町、穴水町、能登町では、断水が続いている地域もあり、避難生活を続けざるを得ない状況です。特に被害が大きかった自治体の復旧率は、輪島市が41.8%、珠洲市では3.1%にとどまり、すぐの帰宅は見込めず避難は長期化しそうです。

製薬業界にも能登半島地震による影響が出ています。地元の広島県にある病院へ薬を貰いに行った母が「地震の影響で工場が復旧できていないらしい。病院に残っている薬をみんなで分けないといけないから、ちょっとしか貰えんかった」と嘆いていました。北陸地方には製薬各社の生産拠点が集まっています。地震の影響で建物や設備が壊れてしまったり、道路が寸断されたりしているため、かねてから懸念されていた薬不足はさらに深刻化するでしょう。

2020年12月以降、多くの医薬品の製造が停止されたり、限定出荷したりしている影響で、供給不足が続いています。日本製薬団体連合会の調査では、処方箋全体の25.9%が注文のすべてには応じられない状態で、毎月調査を始めた去年4月以降で最も高い水準となりました。

17年6月の閣議決定で、国は20年9月までにジェネリック医薬品(後発医薬品)の使用割合を80%とするように促しました。先発と同じ成分で、品質や効き目も同じジェネリックは、研究開発にかかる費用が低く抑えられることから薬価を安くすることができます。

しかし、増産は簡単ではありません。製造設備の増強や原液の調達、専門的な技能を有する人材の確保など、たくさんのポイントを押さえなければなりません。準備が不十分なままだと、品質が維持できなかったり、誤った手順で作られたりするリスクが高まってしまいます。

実際に、ジェネリック医薬品を増産するにあたって、大手メーカーによる不祥事が相次ぎました。各社は法令に基づき、国に承認された方法で製造し、品質を検査する義務がありますが、異なる方法で済ませ、虚偽の記録を作るなどしていました。

全ての薬を必要とする人に届けるために、ジェネリック医薬品の増産は早急に求められます。ですが、それが故に品質が落ちて効き目が悪くなってしまってはいけません。正しい知識を持つ人材が薬を作っているか、人員がきちんと確保されているか、試験を怠っていないか再度確認する必要がありそうです。

今回の能登半島地震の影響でさらなる薬不足が続くことでしょう。ですが、まずは、被災地の復旧が1番です。1日でも早く、被災された人々に元通りの生活が戻ってくることを願うばかりです。

 

参考記事:

・1日付、朝日新聞デジタル、断水なお1.9万戸 避難1.1万人 能登地震2カ月

・2月16日、読売新聞オンライン、[医療ルネサンス]シリーズ薬 不足の裏側<1>25%超が通常出荷できず

・2月19日、読売新聞オンライン、[医療ルネサンス]シリーズ薬 不足の裏側<2>医療現場も危機感募る

・2月20日、読売新聞オンライン、[医療ルネサンス]シリーズ薬 不足の裏側<3>官製バブル 浮かれた企業

・2月21日、読売新聞オンライン、[医療ルネサンス]シリーズ薬 不足の裏側<4>過密な製造予定 増産の壁

・2月22日、読売新聞オンライン、[医療ルネサンス]シリーズ薬 不足の裏側<5>出荷制限の「ドミノ倒し」

・2月23日、読売新聞オンライン、[医療ルネサンス]シリーズ薬 不足の裏側<6>品目膨大 困難な適正化

・2月26日、読売新聞オンライン、[医療ルネサンス]シリーズ薬 不足の裏側<7>品質置き去り 生産加速

・1月16日付、茨城新聞クロスアイ、茨城県内も薬品不足 供給不十分が慢性化 能登地震被災も懸念

 

参考文献:

・2月付、日本製薬団体連合会、安定確保委員会、医薬品供給状況にかかる調査結果

・厚生労働省、後発医薬品(ジェネリック医薬品)及びバイオ後続品(バイオシミラー)の使用促進について