廃炉までの長い道のり ― 福島第一原発現場視察

2月9日、経済産業省木野正登参事官の案内で福島第一原子力発電所を視察しました。友人の紹介で、見学に参加しました。

写真1 1号機建屋(木野氏提供)

(1)1〜4号機

2011年3月11日に発生した東日本大震災では、地震や津波の被害も甚大でしたが、この福島第一原発での事故が事態をより深刻にしました。第一原発は、1〜6号機まで原子炉が建てられましたが、当日稼働していたのは1〜3号機だけで、他は定期点検中でした。写真1は、格納容器の圧力が高まり、水素が発生して爆発した1号機建屋です。12年以上経過した今でも当時の骨組みが生々しく残っています。写真を撮ったのは、1号機から数百メートル離れた展望台でしたが、0.07msv(ミリシーベルト)と1時間そこにいるとレントゲン1回分くらいという放射線量でした。ただし、1号機の炉内などはそれの2万倍程度あり、人間が近づくことができません。これが、原子炉内に残るゴミ(燃料デブリ)を取り出すための大きな障壁となっています。

写真2 高圧放水車(コンクリート圧送車) (木野氏提供)

 写真2は、コンクリート圧送車と呼ばれるもので、もともとは建設現場でコンクリートを長いアームを使って送り出すものでした。しかし、この車両は意外なところで活躍することになります。

4号機の建屋が爆発したことで、使用済みの核燃料を冷やしておくプールが外部にむき出しになってしまいました。また冷却用に蓄えられていた水が核燃料の発する熱によって蒸発してしまっていたため、プールに水を注入する必要がありました。人が立ち入って注水できないことから、コンクリート圧送車がアームを伸ばし、水を注ぎ込みました。ちなみに、この車両はアームが首の形に似ていることから、愛称でキリンと呼ばれています。事故で活躍した車両は被曝線量が高く、発電所の外へ持ち出して処分することができません。このため、今もひっそりと構内に佇んでいます。

写真3 処理水を溜めているタンク (木野氏提供)

写真4 海洋放出のためのトンネルを掘削したシールド (木野氏提供)

(2)処理水の海洋放出

 写真3は、原発から出る汚染水をろ過して海洋放出できるようにした処理水を溜めるタンクです。原発事故では原子炉を冷やすために大量の水が必要とされましたが、原子炉内の放射線を吸収してしまい、汚染されました。また、地下水や雨水などが原子炉や建屋内に入り込むことで、汚染水が増加していきました。事故後、保管するためのタンクが増設されていき、最終的に135万トンが蓄積されました。このままだとタンクの容量を上回るため、十分に放射性物質を取り除いた上で海へ放出することとなったのは、昨年の夏ごろでした。ALPSという装置で浄化することからALPS処理水とも呼ばれます。汚染水を全て処理して海洋に放出し終えるのは、大体30年後とされていて、安全に配慮しながら長い年月をかける作業となります。

 写真4は、海洋へ処理水を放出するためのトンネルを掘削したシールドの一部です。この場所から、海洋放出の場所が見えたのですが、安全上写真の掲載は許されません。事故当時、すでにあったタンクが津波の影響でひしゃげているなど、周辺には事故の爪痕が依然として残ったままでした。

 

写真5 5号機使用済み核燃料プール(木野氏提供)

写真6 5号機 ベント弁(木野氏提供)

写真7 5号機 炉心直下 (木野氏提供)

写真8 格納容器内部に通じる配管(外側) (木野氏提供)

写真9 格納容器内部に通じる配管(内側) (木野氏提供)

(3)5号機建屋内

2〜4号機と同型の原子炉を持つ5号機の原子炉建屋に入りました。5号機は、震災当時定期点検で運転を停止していて、大きな被害はありませんでした。現在は廃炉作業が行われています。

写真5は、使用済みの核燃料を保管するプールです。筒状になった燃料棒がいくつも水に浸かっていました。1〜4号機の事故の際には、このプールの水も核燃料の熱などで蒸発し、燃料棒が露出してしまう危険性がありました。現在この5号機のプールは温度が一定に保たれています。

写真6は、5号機のベント弁です。事故当時1〜3号機は原子炉内の圧力が急激に高まり、炉が圧力に負けて爆発する危険性がありました。これは予想される最悪の事態で、原子炉建屋が爆発するよりもさらに大量の放射性物質が拡散する恐れがありました。そのため、炉内に溜まった気体を外に逃すことで爆発を防ぐベントが当時試みられました。ベントのための配管を開閉するのは、通常は遠隔で操作できますが、当時は停電のため人が直接バルブを開けに行くことが必要になりました。写真にあるのがこのバルブです。

写真7は、原子炉の内部で炉心の真下にあたる箇所です。天井部には燃料棒を調整するための配管が張り巡らされていました。1〜3号機では、上部にある核燃料などがこの場所に溶け落ち、さらに他の物質と一体となり、燃料デブリとなっています。立ち上がると頭がぶつかるくらいの非常に狭い区画でした。

写真8、写真9は、燃料デブリ取り出しにも深い関わりのある配管を外側と内側からそれぞれ映したものです。2〜4号機と5号機は同型のため、同じ箇所に配管が存在します。ロボットを遠隔操作して溶け落ちた燃料デブリを取り出すことが廃炉に際して必要ですが、炉内にロボットを入れる際にこの配管を活用することが検討されています。燃料デブリの取り出しは、今年度内に実施する予定でしたが、先日、東京電力が今年10月末まで延期することを発表しました。

(4)視察を終えて

視察で見えてきたのは廃炉のために莫大なコストと時間がかかるということでした。ALPS処理水の海洋放出には30年程度、燃料デブリも全て取り出すまでに多くの時間を要します。また、使用済み核燃料の最終処分に関しても、青森県六ヶ所村に再処理工場が建設されてはいますが、見通しが立っていません。

長い道のりを経て廃炉が進められるわけですが、視察を終えて急ぎすぎるのも危険だと感じました。構内に入るために、見学前には放射線量をチェックし、5号機の建屋内に入る際には防護服を着用しました。一つ一つ手順を確認し、相互にチェックして被曝などの事故を防ぐ努力がされていました。「安全は全てに優先する」と標語が書かれた看板が設置されていました。この標語の通り安全を第一に廃炉作業を進めてもらいたいものです。その点、視察の2日前に処理前の放射性物質を含んだ汚染水が漏れ出てしまったのは残念でなりません。15日の会見で東京電力は、閉めなければならない配管が開いてしまっていたと発表しています。

 

2月3日付読売新聞朝刊社会面「廃炉 道のり険しく 福島第一 建屋カバー工事」

1月26日付朝日新聞朝刊社会面「デブリ取り出し、年度内着手断念 福島第一2号機」

1月26日付日本経済新聞5面「福島第1原発、デブリ除去3度目延期 東電HD、装置開発に時間 廃炉費用膨らむ恐れ」