校内にチョコを持ち込むのは「苦い思い」をするからダメ?

2月14日。もともとは聖人の殉教を悼む日であり、20世紀以降は男女が愛を告白する日とされています。日本では、本命チョコや友チョコ、義理チョコなどとして親しまれてきました。

コンビニから百貨店まで幅広い価格帯の品ぞろえが見られ、飲食店の期間限定メニューとしてバレンタインにちなんだ商品展開がなされることもあるため、何らかの形で「バレンタイン」に接する人が多いのではないでしょうか。

 

筆者にとって、バレンタインに一番熱心だったのは小中学校の頃でした。

学業に関係のないものは持ってきてはいけないことや、アレルギーや食品衛生上の問題があるという理由で、バレンタインデーにチョコレートを持ってこないようにあらかじめ注意されたことがありました。

しかしどうしても友達同士で交換したかったため、放課後に公園で集まる約束をし、わいわいしながらチョコレートを渡しあった思い出があります。

 

また、学校に持ってきてはいけない理由としては、「貰える子と貰えない子で差が生まれかねないから」という説明もなされていました。

確かにチョコレートを買ったり作ったりするには、相応の費用や設備が必要です。家庭の状況によってはチョコレートに支出することが難しい場合があるでしょう。また、周りからチョコレートを貰えなければ悲しい気持ちになるなど、負の感情を味わうこともあるかもしれません。

すでに1984年の日経新聞には、札幌市西区の市立手稲西小と名寄市の市立豊西小でチョコレートのプレゼントを禁止したとする記事がありました。手稲西小では、校内でのチョコのやり取りを禁止した理由を「出費がかさみ、もらう、もらわない子の差別が生まれる」からとしており、豊西小では各家庭に禁止通達を出したと報じています。

 

一方で、2016年には森永製菓から中高生をターゲットとした販促が展開されるなど、10代の関心の高さを前提とした営業戦略が練られていることが伺えます。森永製菓の調査では、最もチョコを配るのは友達との付き合いが多い10代女性であり、特に女子中高生では、配る量が1人当たり9個と、他世代と比較して突出しているそうです。

この記事には「バレンタイン当日が平日のため、中高生は学校でもチョコを配れる」という一文がありました。しかし、12年には学校にチョコレートを持ち込むのは校則違反であるとして、違反した生徒に対し所属クラブでの活動を1週間程度停止した中学校のことが報道されています(後掲読売新聞2012年)。顧客層を広げたい企業側と、学校への持ち込みを規制したい学校側で意識ギャップが大きいことがうかがえます。

 

しかし、新型コロナウイルスの感染拡大などにより、チョコレートのバレンタイン需要は縮小しており、学校でチョコを渡す機会も減っているようです。

調査会社のインテージ(東京・千代田)によると、バレンタインデーで「(チョコを)渡す予定はない」と回答した女性は、20年に28.5%、21年に30.1%、22年に39.4%、23年に42.7%と、年々チョコを渡さない人が増加していることが分かります(「いまどきバレンタイン事情」2023年2月8日)。

また、ジェンダー観に伴って商戦そのものの変化もみられます。資生堂では、バレンタインデーに合わせたチョコレートモチーフのメイクやコスメのプレゼントを提案しています。「女性」から「男性」へ食品の贈り物をするという固定観念にとらわれない姿勢が見られます。

 

チョコレート需要を高めるイベントとして1970年代から定着した、日本のバレンタインですが、80~90年代には学校や職場で気配りとして渡す「義理チョコ」が増えたり、2000年前後には友人に渡す「友チョコ」が広まったりと、時代の流れを反映して変化してきました。近年では、自分へのご褒美としてチョコを買う動きもみられます。

 

翻って、学校のバレンタインに対する規制はどうでしょうか。アレルギーや食品衛生上の問題があるため持ち込むべきではないという理由には合理性があるでしょう。ただ、「貰えない人が気の毒」という理屈は、現代のバレンタイン事情に当てはまらないように思います。

女性から男性へ渡すという枠組みが薄れつつあるうえ、先に述べたように義理チョコを含め他者へチョコを渡す予定の人が減りつつあるからです。また、校内でのチョコの受け渡しを禁じても、校外については規制できないため、「作る人・作らない人」「貰える人・貰えない人」という構図に変わりはないように思えます。むしろチョコを貰えずに悲しく思う人がいるとすれば、他国のバレンタイン事情を教えるなど多様な在り方を紹介し、必ずしもチョコレートにこだわる必要がないと伝える方が有意義だと考えます。

家庭科の授業に、お菓子の衛生管理や調理実習を含めた学習を取り入れることも、教育のひとつの在り方ではないでしょうか。規制をするのは各校の判断によるかもしれませんが、一方的に抑えるのみで、実は隠れて持ち込んでいる生徒がいるとすれば、かえって衛生管理が悪い状況に追い込んでしまったかもしれません。

 

小学生のときにバレンタイン熱が高かった筆者としては、チョコには贈り手の名前を書くこと、手作りのチョコは早めに食べきるべきであることを教えてくれたら良かったのにと思います。貰ったチョコレートをまとめてカバンに入れていたところ、誰から何を貰ったのか分からなくなり、お礼やお返しができなかったうえ、数十個のチョコを貰ったものの食べきれず、最終的にカビを生やしてしまった苦い経験があるからです。

 

バレンタインの醍醐味は、恋人同士や友人、個人という枠組みを越えて、甘い気分を味わうことにあるでしょう。教育機関としての学校の在り方を踏まえつつ、バレンタインに対する規制や、その根拠を考え直すきっかけとし、本当の意味で「苦い思い」をする状況を生み出さないことが必要ではないでしょうか。

 

 

【参考記事】

2023年2月17日 日経速報ニュースアーカイブ「さらば義理チョコ ジェンダー観が変えたバレンタイン」

2021年2月10日 日経MJ(流通新聞)「義理チョコ「ない」8割に、バレンタイン、コロナ下で下火? 自分へのご褒美用は増加。」

2016年12月16日 日経MJ(流通新聞)14面「友チョコ手作り、楽しんで、来年のバレンタイン、森永、中高生に的、レシピ配布、写真栄えも◎。」

2012年3月3日 読売新聞 全国版中部朝刊35面「学校にチョコ だめ? バレンタイン「校則違反」で部活禁止=中部」

1984年2月14日 日本経済新聞夕刊11面「バレンタインデー、義理チョコでもいい?」

【参考資料】

バレンタインデーの起源と世界のバレンタイン事情をご紹介 | カカオの文化 | Hello, Chocolate | 株式会社 明治 – Meiji Co., Ltd.

バレンタイン、値上げで低調? 義理チョコ衰退、推しチョコ躍進:日経クロストレンド (nikkei.com)

バレンタイン・ホワイトデー特集|オンラインショップ|ワタシプラス/資生堂 (shiseido.co.jp)

(以上全て最終閲覧日:2024年2月13日)