来る洪水に備えよ ―「海抜ゼロメートル地帯」から見える東京の脆弱性

都東部で海抜ゼロメートル地帯洪水の危険性が指摘されています。現状と行政の対策をまとめました。

東京都板橋区は29日、荒川河川敷の再整備を促進する「区かわまちづくり基本構想」を発表しました。荒川の河川敷をにぎわい空間として再整備する計画です。荒川が氾濫した際の緊急避難所として整備された陸上競技場と河川敷を連絡通路で結ぶことで、安全に避難できるような整備も予定されています。

荒川は、「荒ぶる川」として歴史的にも多くの水害を起こしてきました。1910(明治43)年には、台風などによって荒川(現在の隅田川)の水位が上昇し、氾濫しました。埼玉県内の平野部全域が浸水し、東京の下町にも大きな被害が発生しています。この結果、翌年から大規模な治水工事が行われ、1924(大正13)年隅田川の分流として荒川放水路(現在の荒川)が完成しました。

墨田、江東、足立、葛飾、江戸川の江東5区は、「海抜ゼロメートル地帯」の多い地域となっており、水害の危険性が長年指摘されています。この区域には、江戸川、荒川、隅田川など大小の河川があり、堤防よりも低い場所に住宅が多いことから氾濫した場合の甚大な被害が想定されています。また、井戸水の汲み上げなどにより河川の周辺地域で最大4.5メートルの地盤沈下が起きていて、洪水が発生すると自然排水が難しい状況になっています。

出典:国土交通省(https://www.mlit.go.jp/river/kasen/koukikaku/pdf/feature.pdf)

 

国土交通省によると、一度洪水が発生すると2週間以上にわたって水が周辺地域にとどまり、孤立者は最大で72万人に達するとされています。荒川の堤防が決壊して13時間後には、銀座駅や東京駅の周辺でも浸水が発生し、この一帯に本社を構える銀行や金融機関、企業に大きな打撃となり、日本を支える経済・金融活動の麻痺へつながります。さらに、首都東京を日頃支える地下鉄の浸水や道路・鉄道・ライフラインの途絶など、私たちの安定した生活が脅かされる事態が起きるかもしれません。

 

出典:国土交通省 荒川下流河川事務所(https://www.youtube.com/watch?v=h3YylcsxOyU)

 

また、地震発生により堤防に損傷が加わることで決壊し、浸水する危険性も指摘されています。首都直下型地震などにより、堤防が崩れると、地震被害に浸水被害が加わった複合災害となります。最悪のケースで首都機能が完全に止まることになります。

台風や大雨などの水位上昇に伴う堤防決壊であれば、被害は事前にある程度予測でき、前もって避難が可能ですが、地震の場合は突発的に発生するため避難が進まず、多くの人が孤立状態になりかねません。

江東5区は、洪水時の被害を最小に抑えようと大規模水害広域避難計画を定めています。広域避難は、対象地域から近隣の東京都西部や千葉県、埼玉県、茨城県、神奈川県へそれぞれ分散して避難するものです。ただ、浸水想定区域内の居住人口は250万人とされていて、洪水が発生してからでは遅すぎます。

一方、高台やビルの上に避難する垂直避難は、広域避難が間に合わなくなった場合の最終手段となっています。垂直避難した場合でも、浸水区域の排水は、2週間以上続くとされているため、最悪の場合孤立することになります。

 

出典:江東5区広域避難推進協議会(https://www.city.edogawa.tokyo.jp/documents/10884/koto5_leaflet.pdf)

 

こうした避難計画に加えて、高台や堤防、河川敷の整備のようなハード面での対策、さらには浸水想定地域の住民にはハザードマップなどを通じて危険性を周知し、広域避難への備えを促すソフト面での対策が急務でしょう。

 

2024年1月30日付 朝日新聞朝刊(東京14版)地域・東京面「荒川河川敷 にぎわいの場に再整備 板橋区が構想」

2024年1月30日付 読売新聞朝刊(東京14版)地域・東京面「荒川河川敷に親水広場 キャンプ場やカフェ構想」

2023年8月22日付 日本経済新聞朝刊(東京14版)地方経済・東京面「身構える大都市関東大震災100年(1)人口集中 新しい防災探る 水害や交通マヒ 対策急務」

NHK「海抜ゼロメートル地帯の水害対策 命と暮らしをどう守る?」(https://www.nhk.or.jp/ashitanavi/article/6476.html#mokuji02)