【 AI時代の「学び」① 】暗記は何のため?

 

「A I生活革命」幕開け

今朝の日本経済新聞から始まった「AI大競争時代」連載の見出しです。米国で開催中の世界最大のテクノロジー見本市「CES」では、約4000社の参加企業がAI活用策を競ったとのこと。「超頭脳を使いこなして顧客の心をつかめるかが、AI大競争時代の浮沈を握る」と記されていました。

最近新聞で「AI」という文字を見ない日はありません。普段の生活や仕事でも頻繁にChatGPTと会話するようになりました。簡単に知りたいことを教えてくれるAI時代です。果たして、学校の勉強にはどんな意義があるのか。「優秀」な人とは、どんな人なのか。これから「学び」に向き合う人たちに、その意義をどう伝えていくべきか。筆者が持つ教員免許の教科、中学校社会科で考えてみたいと思います。今回のテーマは、「暗記」について。

 

■「暗記」は何のため?

学習指導要領によると、中学校社会科は「社会的な見方・考え方を働かせ、課題を追究したり解決したりする活動を通して、広い視野に立ち、グローバル化する国際社会に主体的に生きる平和で民主的な国家および社会の形成者に必要な公民としての資質・能力の基礎」を育成することを目指しています。

その社会科で育みたい「資質・能力の基礎」は、次のとおり。

(1) 我が国の国土と歴史,現代の政治,経済,国際関係等に関して理解するとともに,調査や諸資料から様々な情報を効果的に調べまとめる技能を身に付けるようにする。
(2) 社会的事象の意味や意義,特色や相互の関連を多面的・多角的に考察したり,社会に見られる課題の解決に向けて選択・判断したりする力,思考・判断したことを説明したり,それらを基に議論したりする力を養う。
(3) 社会的事象について,よりよい社会の実現を視野に課題を主体的に解決しようとする態度を養うとともに,多面的・多角的な考察や深い理解を通して涵養される我が国の国土や歴史に対する愛情,国民主権を担う公民として,自国を愛し,その平和と繁栄を図ることや,他国や他国の文化を尊重することの大切さについての自覚などを深める

▲「中学校学習指導要領 第2章 社会 第1目標」より 下線部は筆者加筆

筆者が引いた下線部分に着目していただければわかる通り、「覚える」という言葉はありません。社会的な事象について理解する。情報を調べまとめる。議論、考察、判断する……。こうして見ると、現代の社会科では、AIのある実社会でも役立ちそうな能力を培うことをゴールとしているようです。しかし実際、学校のテストでは「どれだけ覚えているのか」を問われることが多い。本日1日目を迎えた共通テストも、もちろん持ち込みは不可でした。

これは「公民としての資質・能力をつけたら必然的に覚えているものだ」という前提があること、それらの資質・能力があるかを確認するために「知識」を問うのが一番効率的であることなどが理由でしょう。小論文やレポート、ディスカッションの様子などでそれを測るとなれば、膨大な労力を要します。

また、「公民としての資質・能力」をつけずとも、とにかく一度覚えてしまった方がその後で学ぶ社会科のあれこれを理解しやすいから、という理由で暗記が求められることもありますが、それもあくまで「暗記が最終目的」というわけではありません。例えば、時代の順番、各時代の始まる年号、中国の国名の変遷、日本の都道府県など、意味はわからずとも初めに覚えてしまった方が、後の勉強で理解が早く、学びが面白く感じることがありますから。

しかし、受験競争が激化すればするほど、「公民としての資質・能力」を培うことはすっ飛ばして、「必然的に覚えている内容」のみを暗記してしまおう、と考える人たちが増えるのも当然です。学校で「資質・能力の基礎」を培うことが難しかった人ほど、塾や予備校などで「受験テクニック」を重宝するようになります。結果、「AIに聞いたらすぐ答えられるような知識のみを身につけた人」が増えてしまうわけです。

 

■「公民としての資質・能力」をゴールとするために

この状況を打開するために、どうすれば良いか。

そもそも、学校の勉強が「公民としての資質・能力を培うこと」だと、実感を伴って理解している人はあまりいません。学校での勉強は「テストや入試で出てくる概念をわかりやすく理解するため」と考えている人が多いのではないでしょうか。まずは、今学びに向き合っている人が、学びの意義を改めて捉え直すことが第一歩でしょう。どれくらいの教育者が、それを自分なりの言葉に落とし込み、子どもに伝えられているのか。学びの中で子どもがそれを実感できているのか。気になるところです。

以前ほど「学びの意義」が明確に見えづらい時代だからこそ、子どもと一緒に「なぜ社会科を学ぶのか」を考えてみるのも手かもしれません。中高生であれば、学習指導要領の冒頭を見せて、「理解する」「考察する」「まとめる」ことができるようになったら、どんな良いことがあるのだろう?逆に、これができないままだと、何に困るだろう?とじっくり考えてみる。そうすれば、これから彼らが勉強に向き合うたびに、その目的を深く理解した上で有意義な時間を過ごすことができるかもしれません。

学校、授業、テストの意義。それぞれを見つめ直せば、自ずと「AIのある時代の教育」の形が見えてきそうです。学校教育関係者や児童生徒に限らず、学びに向き合う全ての人が、「学び」を根源から考えることで社会全体の教育観が絶えずアップデートされていくことを期待します。

 

関連記事:

13日付 日本経済新聞朝刊(愛知12版)総合2面 「『AI生活革命』幕開け 話せるクルマやポケット秘書 17兆円市場を争奪」