「住んでよし、訪れてよし」な地域づくり 攻める城下町の戦略Ⅲ

今回は、地域住民と観光客の共存のために大洲市が取り組んでいる、ターゲティング戦略を紐解きます。

1.観光客も住民も安心できる町づくり

大洲市の美しい町並みは日本人だけでなく、インバウンド(外国からの観光客)から人気を博しています。海外からの訪問者が増えることで懸念されるのが、オーバーツーリズムの問題です。大洲市はこれまで、バスツアーによる観光客を受け入れを積極的に行っていましたが、有料のガイド付きバスツアーのみを受け入れるようにするなど受け入れ基準を上げることで一部を規制。数ではなく、一人当たりの消費額を高めることを重視しました。ターゲット層を絞っているのです。

観光客の数に捉われず、「量より質」を重視する観光の様子は、街を歩くとわかります。今回伺ったキタ・マネジメントがある観光拠点「まちの駅あさもや」にあったバス駐車場には、個人の車が止められるようにコーンが設置されていました。この様子はまさに、質より量というターゲティングの結果を表しています。一人当たりの消費額を高める施策の一つとして、町家を活用した高級ホテルの整備があります。大洲に来る観光客数が少なくても、産業として成立するような仕組みになっています。実際に、大洲に訪れる観光客一人当たりの消費額も増加傾向に転じています。

「まちの駅あさもや」バス駐車場(筆者撮影) 現在は個人の車が止められるようにコーンで区分けされている

2.狙いを絞った観光整備

修繕する建築物を選ぶ際に、大事にしている視点があるそうです。それは、建物自体の歴史的価値だけでなく、城下町などのエリア的な価値があるかどうかです。観光客が集約している場所に集中的に投資することで、より街に良い影響を与えることを重視しています。

また、ターゲットを絞るためにも、城下町での事業者の選定にも工夫を凝らしています。その戦略は、ショッピングモール内に出店する店舗の選定のようでした。

大洲市が想定するターゲット層に合った事業に町家を活用してもらうことを重視しています。その他にも、城下町の雰囲気に合った事業かどうか、既にある事業者と需要を食い合わないかなども大事な要素だそうです。現在は20以上の観光事業者が県内外から大洲に進出して事業を展開しているそうです。

ターゲット層に合わせた事業の代表例が、バリューマネジメント株式会社(大阪市)が運営する分散型ホテル「NIPPONIA HOTEL 大洲城下町」です。町屋を活用した高級ホテルが大洲の城下町に点在しています。分散型ホテルという形式は、観光としてだけでなく、地域住民にとってもメリットがあります。安全性の向上です。街に明かりが増えることで、街の雰囲気の向上や治安の保全にもつながります。

また、ホテルには火災報知機やスプリンクラーなどの機能が必ず整備されるため、いざという時、初期消火が行われます。町家が密集した地域では火災が起きた場合、初期消火が行われないと大規模な火災につながりやすくなります。空き家だった建物が使われるようになったことで、地域の安全性が向上しました。

NIPPONIA HOTEL 大洲城下町(筆者撮影)

NIPPONIA HOTEL 大洲城下町(筆者撮影) 真っ暗な城下町の道標になっている

 

観光地化によって懸念される問題を未然に防ぎ、住民もこれまで以上に安心して暮らせる持続可能な町づくり。オーバーツーリズムや過疎化に悩まされる地域にとって、参考にすべき部分が多くあるはずです。実際に、視察に訪れる自治体も多いそうです。先進的な城下町の取り組みに、今後も目が離せません。

 

参考記事

日本経済新聞2021年11月19日『城下町観光、宿泊客誘う、愛媛・大洲で古民家ホテル続々、文化財や特産品活用、保全と地域活性化両立』

日本経済新聞2022年10月7 日『世界の持続可能な観光地100選 城下町再生、愛媛・大洲に 香川・小豆島は2年連続 SDGsテーマに誘客』

朝日新聞2023年06月16日 『(#SDGs)「持続可能な観光地」選出立役者、ディエゴ・コサ・フェルナンデスさん』

朝日新聞2023年06月15日『(ひと)ディエゴ・コサ・フェルナンデスさん 愛媛県大洲市を「世界一」に導いたスペイン人』

参考文献

観光庁「観光交流人口増大の経済効果」(2015年)