16世紀に書かれた医学書『針聞書』 “腹の虫”がおもしろい

怒った時に使うのが、「腹の虫が治まらない」。不機嫌な様子を言うのが、「虫の居所が悪い」。他にも、「本の虫」や「勉強の虫」など、なにかに没頭する状態を指して、「○○の虫」などと言ったりします。

日本の慣用表現にしばしば用いられる「虫」。なぜでしょうか?

日本百科全書で「虫」を引くと答えが載っていました。

「一般に昆虫類の総称として用いられるが、~(中略)~近世には、人間の体内にあって、その人の健康状態や感情の動きにさまざまな影響を与える9匹の虫の存在が信じられていた」

 

先日、福岡にある九州国立博物館を訪れた際、『針聞書(はりききがき)』という収蔵品を見ました。室町時代に書かれた医学書で、「針」という漢字からも分かるように臓器や体内の解剖図だけではなく、症状別の針灸の方法などが記載され、近世の鍼灸流派に影響を与えていると言われています。

この資料の特徴は、病気を引き起こす原因と考えられていた虫が説明書きとともに描かれていることです。9匹どころか63匹も登場する資料は国内でほとんど確認されておらず、当時の病気に対する捉え方が分かる貴重な資料ということです。

(筆者撮影)肺虫。右側にアニメ版とあるように九博ではキモカワイイな雰囲気でキャラクター展開されていた。

(筆者撮影)脾の聚

今日からすれば、病気や体の不調の原因を虫に全部押し付けてしまうのは驚きです。「太っているのはこの虫のせいだ」などとされた虫もおり、現代の医療を前提とするととても頓珍漢なように思えます。ですが、こういった昔の「なんちゃって医学」の積み重ねで医学が進歩していったことも確かです。

いわゆる「先人たちの知恵」というのはこういうものなのでしょう。「そんなバカな」と思いますが、今私たちが享受している先進医療も腹の虫たちがいなければ、なかったかもしれません。

 

参考資料:

九州国立博物館、「収蔵品ギャラリー『針聞書』」

九州国立博物館、「収蔵品ギャラリー『針聞書』 虫をもっと見る」