就職予備校化する大学 学生も学びには期待していないのではないか

7月30日の読売新聞朝刊1、2面では国際通貨研究所理事長の渡辺博史さんによる大学改革についての論考が掲載されていました。そこでは教育の場としての大学の質が低下している現状が指摘されていました。その結果として大学教育への不信感が高まり進学率は頭打ちとなっているそうです。そこには経済的事情などより複雑な理由も考えられますが、大学の講義の質の低下は筆者も感じているところです。

近年の大学教育で大きく変わったことといえば、オンライン授業の普及でしょう。今年に入り大学もコロナ前と同じ体制に戻りましたが、それでもオンライン授業は一定数残っています。オンライン授業が出始めた頃は、いつでも受けることができる点やどこからでも受けることができる点で期待が持たれていましたが、待っていたのは拡大版の「階段教室」でした。オンラインの講義は対面授業よりも学生に選ばれる傾向があり、筆者が通う学部では一つの講義を600人もの学生が履修するものまであります。

こうなってしまっては有意義な議論はおろか、毎週のコメントに対する教員からのフィードバックすらままなりません。毎週400字程度のコメントを提出し、学期末には2000字程度のレポートを提出すれば単位がでます。400字程度なら授業など見なくても書けてしまいます。対面であれば集中して聞いていないと怒られますし、何しろ申し訳無さもあり多少は講義を聞くものです。オンラインではそんな制約さえありません。

そもそも、学生は大学に対して充実した教育を求めているのでしょうか。ベネッセ教育総合研究所の調査によると、高校生が大学選択で重視した点は1位が「興味のある学問分野がある」、2位が「入試難易度が自分にあっている」でした。その他にも「世間的に大学名が知られている」や「就職状況がよい」が上位にきました。これをみると高校生は大学を選ぶ際、自らの学びたいことを重視し、それに対する充実した学びを大学に求めているように思えます。

ただ、興味がある学問分野というのはあまりに抽象的です。また、なぜその学問分野に関心を持っているのか、理由を考えなければなりません。例えば、経済学部や商学部、経営学部といった実学的な学部に興味がある場合、十中八九その興味は就職に向けられているでしょう。学部系統別の調査では男子生徒の志望学部系統は1位が工学系、2位が経済・経営・商学系でした。これらの志望理由は1位が「学びたい学部系統だから」ですが2位には「就職に有利そうだから」が来ています。高校生は就職やその先を考えて大学を選んでいることがわかります。

実際に筆者の大学選びも就職活動の成功度が第一にありました。地方の国公立にも合格し、経済的に考えればそちらに行くほうが良かったわけですが、東京の大学のほうが首都圏の大企業に行きやすいだろうと思い明治大学を選びました。学部も英語を話せたら食いっぱぐれはないだろうと他の学部に比べてやや割高な国際系の学部にしました。卒業が迫り、自らの大学選びを省みると、学問に関してはやや不満があるものの、就職活動では第一志望の企業から内定を得られたし、学生生活も楽しく、この大学を選んでよかったと思います。

https://www.meiji.ac.jp/140th/konochikara/

 大学側も入学生のニーズに答えようと、就活力をアピールしています。上の画像は母校が140周年を記念して出した新聞広告です。国際力や研究力を差し置き中央の最も目立つ場所には就職力が置かれています。明治大学は就職に力を入れている大学ランキングで13年連続1位をとっています。1、2年生のうちから参加できるインターンシップに加え、蓄積されたデータから本番さながらのES添削や面接練習を受けられるキャリアセンターもあります。さらに、ウェブ上でいつでも先輩の就活体験を閲覧できるなどその力の入れようをひしひしと感じてきました。

常に予約が埋まっているキャリアセンターのテーブルにはティッシュの箱が一つずつ置かれているのですが、理由を聞いたところ学生がいつ泣いても涙を拭けるようにしてあるとのことです。こうした就活への注力が功を奏したのでしょう、近年早慶やMARCHといった難関私大が軒並み志願者を減らす中、明治大学は志願者を伸ばし続けています。

大学生の本分が勉学にあるのは間違いありません。大学側も教育の質を高めるよう努力すべきです。しかし、学生のほとんどが卒業後は就職する日本において、ただ勉学に励めばいいというものではありません。就職という現実的な問題への手厚いサポートは大学選びの大きな指針になりえます。大学進学率の頭打ちに加え、少子化による高校生の減少もあり大学経営は今後ますます難しくなっていきます。集客のための大学の就職予備校化はより進んでいくことでしょう。

 

参考記事

読売新聞オンライン 7/30「地球を読む」大学改革 教育の機能 強化必要

https://www.yomiuri.co.jp/serial/earth/20230730-OYT8T50000/

東洋経済オンライン「一般入試の志願者が多い大学」ランキングTOP50

https://toyokeizai.net/articles/-/673753

参考資料

ベネッセ教育総合研究所 大学生の学習・生活実態調査

https://berd.benesse.jp/berd/center/open/report/daigaku_jittai/dai/dai_4.html

大学入試研究ジャーナル 高校生の志望学部系統選択に関する一考察

https://onl.sc/b2bb25E