増加する通信制高校、ビルの一角で過ごす高校生活のリアル【後編】

前回に引き続き、通信制高校の取材レポートをお届けします。通信制高校のサポート校、おおぞら高等学院・京都キャンパスに通う生徒と先生にお話を聞くことができました。そこから、通信制高校の日常、そして通信制高校が抱える課題も見えてきました。

■進路選択のミスマッチを防ぐ

女子生徒(2年)は同校を見学した際、先生に「別の学校も見てから選んでほしい。」と伝えられたそうです。通信制は、全日制の学校制度に合わない生徒にとっての大切な選択肢。いくつもの学校を見学する中で、ミスマッチを防ぎ、自分に合いそうな場所を選べるように、と学校側が配慮していることがわかります。

それだけでなく、同校ではミスマッチを防ぐ取り組みがあります。同校では中学生を対象としたプログラムが設置されており、中学校生活の悩みや学習に対する不安などをサポート。中学時代から高校の雰囲気を知れたことで安心して入学を決めた生徒もいます。

■親や友達とは違う、先生とも違う「マイコーチ®」の存在

学校と生徒のミスマッチの防止は入学後も大切。同校では生徒自身が自分の担任を選べる制度があり、先生との密なコミュニケーションを重視しています。同校では先生を「マイコーチ®」と呼んでいます。生徒一人一人の悩みを親身になって聞いてくれる存在は、通信制高校に通う生徒にとって、大事な心の拠り所になっているようです。

「しんどいなと思って学校を休もうとしても、中学までは理由を言わないと休みにくい。精神的な部分の苦しさは伝わりにくくて大変でした。休みたくて電話したら、『オッケー。ゆっくりしときな』。いろいろと聞かれることもなく休めました」(3年男子)。休むことに罪悪感が無くなり、生徒たちの精神的な負担を減らすことに繋がっています。

「これまでの先生とは違って、ちゃんとこちらの話を聞いてくれるんです。進路に関してだけでなく、体調面や友達関係とか本当に何でも聞いてくれる。親とも友達と違う、先生とも違うマイコーチという存在は頼りになっています。」(2年女子)

先生のバックグラウンドもそれぞれ違うようです。同校で勤務する前に他の仕事をしていた方も多いことから、多様な大人と触れ合えることも良い学びに繋がります。

■通信制高校が抱える課題

「全日制と違うところがそのままメリットでもあり、デメリットになっています」と、教務主任の柴野先生は教えてくれました。

「例えば、1クラス40人いないのは良いところ。個別にしっかりとコミュニケーションが取れる。逆に40人いるクラスメイトと一緒に何かをする経験ができないところはデメリットかもしれません。」

自律した生活を送れるようにならないまま卒業してしまう生徒もいるようで、卒業後の社会的自立も課題となっています。

「極論を言えば、授業を受けなくても卒業できる。それがメリットであり、デメリットでもあります。私たちは授業を受けることも大事だと思っているから、授業が受けられるようになって卒業してほしい、他の学校に行く時にそうなってほしいという思いはあります」

卒業後、社会とのギャップに困らないように、先生たちは可能な限りの登校を勧めています。しかし、登校が必要ないシステムに加え、自分のペースを大切にしたい生徒が多いという特性上、無理に登校させることは難しい。先生たちの試行錯誤が続いています。

現に通信制の卒業生の進路は全日制と比べ、不安定です。文部科学省の調査によれば、全日制高校卒業生の進路決定率が9割強なのに対し、通信制は7割弱。卒業後の社会との接続に課題があることが分かります。おおぞら高校では、前回紹介した「みらいの架け橋レッスン®」による在学中のサポートだけでなく、企業や大学と提携した卒業後のサポートにも取り組んでいます。その他の通信制高校も系列校と連携した教育を提供し、進路の確保に努めています。

学習面だけでなく、コミュニケーションや生活習慣の確立など、生徒がこれまでの学校生活で取りこぼしてしまった大切な学びを補う役割を持っています。自由な学校生活は大きなメリットを持っているだけではありません。自由を享受するには、自立するための長期的なサポート体制も必要です。

私服登校可能(筆者撮影)

制服も自由に選べる(筆者撮影)

 

■おおぞら高校のこれから

屋久島おおぞら高校も全国的な通信制高校の生徒数拡大の例に漏れず、2005年の開校以来、一貫して増加傾向にあります。スクーリングをする屋久島の本校は、生徒数の増加に合わせた校舎の増築を計画中。設計は建築家の隈研吾氏が務めます。

高校生活はグラウンドや体育館のある校舎だけではありません。自分の家やビルの中で過ごす学生生活も、これからはもっと一般的になるかもしれません。なりたい大人になるための選択肢として、通信制高校はこれからも生徒を支え続けます。

□編集後記

取材にご協力いただいたおおぞら高等学院・京都キャンパスの生徒そして先生方、おおぞら高校広報の方々に改めて感謝を申し上げます。

通信制高校の様子を先生や生徒から直接伺えたことで、私自身が非常に勉強になりました。卒業してから3年が経ちましたが、コロナ禍を経て大きく変化した部分がありました。それは、想像以上に進んだオンライン化です。更に柔軟な学生生活を送れるようになったことを羨ましく思う部分がありました。一方、柔軟で自由な学校生活の陰に、自律した生徒を育てることの難しさが垣間見えました。

私にとってそうであったように、これからも通信制高校は全ての学生にとっての安息地としてあり続けるはずです。生徒とともに成長し続ける学校を、これからも追い続けたいと思いました。

おおぞら高等学院・京都キャンパスの看板(筆者撮影)

参考記事

朝日新聞『「アイデア次々」「生徒を元気に」 隈さん・茂木さんが対談 屋久島の通信制高校に新校舎設計』(2023年6月10日)

 

参考資料

おおぞら高校HP:https://www.ohzora.net

文部科学省初等中等教育局「高等学校通信教育の現状について(令和2年1月15日)」:https://www.mext.go.jp/kaigisiryo/content/20200114-mxt_koukou02-000004042_4.pdf