将棋ファンとして嬉しいことが2つ立て続けに起きた。1つ目は藤井新名人の誕生、2つ目は羽生九段が将棋連盟の会長に就任したことだ。
遂に名人位も奪取したか。実力を考えれば当然の結果と言う事もできるかもしれないが、七冠達成は生きる伝説である羽生九段以外に成し遂げたことのない偉業。やはり「流石」の一言に尽きる。藤井竜王・名人にとっては将棋の真理を探究するのが目的であり、タイトルは優れた内容の将棋が指せた結果でしかないと捉えているだろう。そうは言っても、前人未到の八冠独占がいよいよ目前となり、将棋ファンそして藤井ファンとしては、期待に胸を躍らせずにはいられない。
正直驚いたというのが素直な感想だった。現役として最前線に居続けるために、会長職はやらないのではないかという観測を耳にしたことがあるし、実際のところ会長職と現役の二刀流は簡単なことではない。ただでさえ現代将棋は移り変わりが激しく日々の研究や勉強が忙しい。それに加えて会長職も兼ねるというのは想像も絶する多忙を極めることになる。新しく会長に就任する羽生九段が、昭和の大名人で現役と会長職を兼ねた大山十五世名人を振り返った記事では、「対局中でもしょっちゅう理事長室で仕事をこなしていた。盤の前でも手帳を開いてスケジュールのチェックをするほどだ。」とある。
名人とは将棋界全体が選んだ、将棋への神様への捧げ物であるのだから
2日付朝日新聞朝刊の天声人語の冒頭部分。2024年に100周年を迎える将棋連盟を彩るのが、最強の証である竜王・名人位を手にして将棋界に選ばれた藤井聡太と、これまで最強の名をほしいままにして、こちらも将棋界に選ばれてきた羽生善治会長というのは、新時代の到来を告げる最高の舞台が整ったと言っても過言ではない。そしてそんな恵まれた時代に将棋が好きでいられていることを本当に嬉しく思う。
ただ、喜んでいるだけではない。これから新聞記者の道に進む筆者としては、まだプロではない学生の分際でありながら大袈裟で偉そうと思われるかもしれないが、必ず自分の手で1人でも多くの人に将棋の魅力を伝えたいという使命感を抱いている。将棋界が選んだニュースターを、神様だけのものにするのはもったいない。多くの人が将棋を理解し魅力を感じ、そのうえで捧げ物を選んでくれた方が神様だって嬉しいに決まっていると思うからだ。
使命感に駆られる理由が他にも2つある。まず普遍的教養としての将棋という観点だ。羽生新会長が「習字やそろばんと同じように、日本人の教養のひとつとして定着してほしい」と講談社企画の対談で話していた。これは自分の目指す将棋記事の形に近い。現在は主にタイトルの獲得の興奮や、注文した食事やおやつが記事になりがちだ。しかし深掘りしていくと、文化や芸術としての側面、AIとも親和性の高い将棋というゲームがもつ数学的側面、プロ棋士のメンタルや礼儀作法に学ぶ教育的側面など、むしろ将棋を指さないし、今いちわからないという人にこそ伝えたい切り口がたくさんある。
2つ目は、スポンサーとしての新聞社という点だ。同じく講談社企画の対談で羽生新会長は、新聞社がスポンサーであってくれたこと、つまり活字文化との密接な関係の中で100年の歴史を守ってきたことに触れていた。対局賞金が達成した偉業に対して少なすぎるといった批判や、これからはネット文化などとも融合していかなければならないという課題もある。しかし、例えば日本経済新聞の「将棋王座戦 写真で振り返る70年」という記事を読んでみてほしい。圧倒的な量の写真が物語るのはその歴史の厚みだ。ネット記事が真似をしたくてもできない部分である。どうしても新時代と聞くと「革新」ばかりが目につくが、守っていく古き良き「伝統」の部分を共有している新聞社だからこそできることがあると信じている。
これからも将棋を愛していくことは変わらないが、一ファンとしてではなく新しい将棋界を彩る人たちを新聞記者という形で支えたい。そしてできればこの将棋という文化を日本に留まらず世界中に伝えていきたい。今思っているそんな決意や夢を忘れないようにしたい。
参考記事:
2日付 朝日新聞朝刊 1面 「藤井七冠 最年少名人」
2日付 読売新聞朝刊 1面 「藤井 最年少七冠」
2日付 日本経済新聞朝刊 1面 「藤井七冠 最年少」
10日付 朝日新聞朝刊 32面(社会) 「羽生九段将棋連盟会長に」
10日付 読売新聞朝刊 33面(社会) 「将棋連盟会長に羽生九段」
10日付 日本経済新聞朝刊 38面(社会) 「羽生九段、将棋連盟会長に」
日経電子版 2022年10月7日 「将棋王座戦 写真で振り返る70年」
将棋王座戦 写真で振り返る70年 – 日本経済新聞 (nikkei.com)
日経電子版 2023年6月9日 「将棋連盟新会長の羽生九段「大山会長は盤の前では手帳」」
将棋連盟新会長の羽生善治九段「大山康晴会長は盤の前で手帳」 – 日本経済新聞 (nikkei.com)
参考資料:
講談社 「成田悠輔と愛すべき非生産性の世界【棋士・羽生善治】」
成田悠輔と愛すべき非生産性の世界【棋士・羽生善治】 | with digital(講談社) (kodansha.co.jp)
日本将棋連盟 将棋連盟について 「会長挨拶」
会長挨拶|将棋連盟について|日本将棋連盟 (shogi.or.jp)
日本将棋連盟100周年記念サイト
日本将棋連盟100周年記念サイト (shogi100th.com)
アイキャッチ画像はこの日本将棋連盟100周年記念サイトより
日経写真映像ニュース 【羽生善治 将棋連盟会長に】
【羽生善治 将棋連盟会長に】
日本将棋連盟は、任期満了で退任した佐藤康光会長の後任に羽生善治九段を選びました。羽生会長は「永世七冠」の偉業を達成し、将棋棋士として初めて国民栄誉賞を授与されています=宮口穣撮影https://t.co/roBWDJSzPD pic.twitter.com/4UvqSamVtj
— 日経 写真映像ニュース (@nikkeiphoto) June 9, 2023