国民が「納めた」税は、どこへ行く?

「さらさら描けるゲルボールペン・税込105円」。何年か前に買った筆箱の中にある1本のペン。「そういえば、消費税って5%だったなぁ」と懐かしく思い出してしまいました。消費税が8%に引き上げられてからもうすぐ2年。学生からすると、5%と8%の差は大きい。スーパーで食材を買うときも、洋服を買うときも、少し考えるようになりました。同じような経験をされている方は多いかもしれません。

首相は2017年4月からの消費税率10%への引き上げについて、景気の足踏み状態が続いた場合には先送りする方向で検討を始めました。世界経済が減速する中、増税は想定以上の景気悪化を招くと考えたためです。5月に開かれる主要国首脳会議(伊勢志摩サミット)前後に最終判断する見通しです。7月10日開票の日程で「衆参同日選」に踏み切ることも視野に入れています。

日本の景気に大きな影響を与えるのが、「個人消費」。14年4月に税率を8%に引き上げた後、家計の支出が1年以上にわたって前年同月の実績を下回り続けるほど消費が冷え込み、その影響は今でも残っています。ノーベル経済学賞受賞者のジョセフ・スティグリッツ米コロンビア大教授(73)は、消費税率8%への引き上げついて「間違った方向に進んだ」と指摘しています。「(日本が)消費増税をする正しい時機ではない。強調したい」と述べました。消費税率10%への引き上げを先送りすることで、低迷する個人消費の持ち直しにつながれば日本経済にとってはプラスになります。

しかし、当初の消費税率引き上げの目的は、増えた税収を医療や介護など社会保障に充てることでした。今回の増税先送りには、このような政策の実現を遅らす懸念もあります。消費税率を8%のままに据え置けば、当面、社会保障に充てる財源は増えません。代替案を考える必要があります。

税収の使い道を明らかにすることも大事です。日本語では「納税者」ですが、英語は”tax payer”。アメリカやオーストラリアでは、国民が国に託した税金がどのように使われたのか知ることができるそうです。日本では「税を納める」という「下から上へ」の印象があり、どう使われたかをチェックするという発想になかなかつながりません。私たちが税収の使い道を知ることができれば、買い物をするとき、野菜ひとつ手に取るときの行動も変わるかもしれません。消費増税先送りのメリット、デメリットはありますが、私たち一人ひとりも「税金は何に使われているのか」を考える必要があるでしょう。

 

参考記事:

18日付 読売新聞朝刊(大阪14版)「消費増税先送り検討」関連面