江戸東京野菜、ご存知ですか?「千住ねぎ」を通じて味わう魅力(レシピ付き)

「太くてしっかりしているので調理していて崩れにくい。加熱すると芯が甘くトロトロになり、外側は歯ごたえも残っていて食べていて楽しい食材」

調理師の秋山凜々加さんが太鼓判を押すのは埼玉県や東京都足立区で生産されている「千住ねぎ」。根元の白い部分を食べる太葱で江戸時代から足立区千住地域で栽培されています。このように古くから東京で栽培されていた野菜のことを「江戸東京野菜」とよびニンジンやダイコン、カブなど52種が登録されています。大都会の片隅で伝統的な作物がつくられているのは意外です。残念ながら、明治以降は栽培がより楽な品種への転換が進み、消費者の志向が変化したことで消滅しつつあるようです。

伝統的な野菜を現代的な西洋料理に使いたい。そんな思いから神楽坂の飲食店に勤務する秋山さんの協力を仰ぎ、千住ねぎを用いた西洋料理に挑戦しました。

千住ねぎを購入したのは築地にある米金という八百屋。2本入を4セット計8本購入したところ、店員から「料理研究家の方ですか?」と声をかけられました。きっと、大量のネギを購入する学生の姿がおかしかったのでしょう。1セット300円と値が張ります。都内のスーパーマーケットで販売されているものは100円程度が一般的ですので、その3倍の値段ということになります。果たして3倍の価値はあるのでしょうか。

左二本が千住ねぎで右二本が栃木県産の一般的な太葱

千住ねぎの太さや緑色の葉の部分の少なさがよく分かる

まずは「ネギのポタージュ」。千住ねぎとじゃがいもをシナシナになるまで炒め、ハンドミキサーで撹拌します。5人前のスープに使ったのは4本。一人当たり0.8本分という濃厚なネギスープです。一般的なポタージュと異なるのはネギの風味が強いことと、食感が残っている点です。シャキシャキとした食感が爽快感を生み、濃厚なのにごくごくと飲めてしまいます。温かいうちに飲むのでも美味しいですが、冷製スープとして飲むのもおすすめです。しかしネギの旬は11月から3月まで。冷製スープが美味しい夏の時期は旬から外れることが悔やまれます。

千住ねぎは肉厚で火が通りにくいため、できるだけ細く切っておくとよい

写真はすべて筆者撮影

 つぎに調理したのは「ネギのドリア」。オーブンでアツアツに加熱されて引き出されたトロッとした甘みがベシャメルソースと合わさり、より濃厚な味わいを楽しむことができます。こちらはポタージュと違い一口で食べられるかどうかという大きさにするのがおすすめです。大きなネギを頬張れば口中に香りが広がります。また爽やかさのお陰で、油っこさで途中からくどくなりがちなドリアも最後まで美味しくいただくことができました。

他にもネギのグリル、ネギ塩ダレ鶏肉ステーキとネギづくしの昼食でした。普段の食事でネギは脇役でしかありません。特に西日本では九条ねぎのような葉ねぎが一般的で、うどんやそうめんの薬味として扱われることが多く、あくまでも料理の引き立て役でしかありません。今回のコースでは主役を張れるという驚きがあり、また、一つの野菜で多くのメニューを考える楽しさもありました。いつものネギより少し値は張りますがおいしいですし、地元の農業の歴史も学べる一石二鳥の食事でした。今回のメニューは秋山さんの了承を得て記事の最後にレシピを記載しています。気になる方は是非試してください。

東京の野菜を楽しむ主旨のため食中酒には三鷹市産キウイで作られたワインを選んだ。

濃厚で甘口な白ワインでキウイの味はしなかったが洋食と合う美味しいワインだった。

 

都内の農地面積は1985年から半減しています。農業戸数は全盛期の60年の約5万戸から減少し続け、2020年には1万戸を割りました。とくに顕著なのは主業農家の数で、1960年に1万5000戸だったのが、2020年には500戸にまで減っています。後継者の問題だけでなく、生計が立てられないというのもあるのでしょう。伝統的な野菜づくりを守るためにも、首都圏の住民は江戸東京野菜を食べて応援しましょう。

 

参考資料

東京都産業労働局 東京の農林水産統計データ

https://www.sangyo-rodo.metro.tokyo.lg.jp/toukei/nourin/49a26759d31782c1a7f2058aabd35c5b.pdf

JA東京中央会 「江戸東京野菜について」

https://www.tokyo-ja.or.jp/farm/edo/

平凡社 大竹道茂著 『江戸東京野菜の物語 伝統野菜でまちおこし』

 

 

今回のレシピ

☆ねぎのポタージュ  4-5人分

<材料>

千住ねぎ 4本

じゃがいも 2個

バター 30g

ブイヨンキューブ 3つ

ローリエ 1枚

水400ml

牛乳300ml

塩胡椒 適量

1.ねぎは小口切りに。ジャガイモは薄くスライスして水にさらしておく。

2.バターでネギを炒め、少ししんなりしたらじゃがいもを入れて炒める。軽く塩で下味をつける。

じゃがいもが簡単に崩れるくらいシナシナになるまで炒める。

3.水300ml入れて、ハンドミキサーで撹拌する→水100ml追加してブイヨンキューブ3つ、ローリエを入れて一煮立ちさせる。

4.牛乳300ml入れて撹拌したペースト状のネギとじゃがいもを伸ばす。

濃厚な味がお好みの方は、生クリーム100mlと牛乳200mlを入れても良い。

5.塩胡椒で味を整える。仕上げに粉チーズ散らす。

 

☆ねぎのドリア 4人分

<材料>

【ベシャメルソース】(基本は小麦粉1:バター1:牛乳10)

小麦粉50g

バター50g

牛乳600-700ml

【ドリア素材】

千住ねぎ 2本

ベーコンブロック 120g

マッシュルーム 1パック

炊いたご飯 600g(お茶碗3杯分位)

エシャロット1個(玉ねぎでも可その際は½個がちょうどいい)

バター 30g

白ワイン50g

チーズ 好きなだけ

オリーブオイル 適量

塩胡椒 適量

*それぞれ食材は食べやすい大きさにカット

【ベシャメルソース】

1.フライパンにバターを溶かし、小麦粉を入れる。

煎るように炒め、粉臭くなくなるまで炒める。

2.少しずつ牛乳を加え、ダマっぽさがなくなるまで混ぜる

3.塩胡椒で味を整えローリエを加え、泡立て器でさらに混ぜる(ベースのソースなので濃くしすぎない)

【ドリア素材】

1.バター30gとオリーブオイル、エシャロット1/2(粗みじん)を入れ(火にかける前から)じっくり炒める

2.ご飯を入れ、塩胡椒で味付け

-バターライス完成-

3.オリーブオイルでエシャロットを炒める。

マッシュルーム、ベーコン、ねぎの順で炒める。

フライパンにあえて焦げ付かせて、白ワインを投入。白ワインを入れてシャーっと言う音が鳴るまでまつ。

底についた焦げを掻く。←旨みになる

白ワインのアルコールを飛ばす。

4.3にベシャメルソースを加えて塩胡椒で味を整える。

ローリエは外す

5.耐熱皿にバターを塗り(分量外)、バターライス→ベシャメルソース→チーズの順に詰める

6.200度のオーブンで20分焼く(チーズに焦げ目をつける)

7.お好みでパセリなどトッピングして完成

 

☆ネギのグリル 4人前

<材料>

千住ねぎ  2本

塩 適量

1.食べやすい長さにネギを切る

2.アルミホイルに包んで、軽く塩を振り、少し水を回す

3.魚焼きグリルで全体的に焦げ目がつくまで焼く(時々回す)

 

☆ネギ塩ダレ鶏肉ステーキ 3-4人前

<材料>

千住ねぎの青い部分 3束分

顆粒だし 大さじ1弱

オリーブオイル ネギが全体的に浸る量

塩胡椒 適量

鶏もも肉 2-3枚

 

【ネギ塩ダレ】

1.ねぎをみじん切りに。顆粒出汁を入れて10分くらい置く。

2.オリーブオイルは全体的に浸るくらい入れて、塩胡椒で味をつける。タレなので塩気が強くて良い。

【パリパリ 鶏肉ステーキ】

1.鶏もも肉は筋を掃除したあと、皮目にフォークで穴を開けてヨレにくくする。皮目じゃない方で分厚いところは、開いて平にする。

2.鶏肉に塩胡椒でしっかりと下味をつける

3.フライパンを熱々に熱し、オリーブオイルを引き、皮目から焼く。弱火でじっくり、パリパリになるまで加熱する。

4.裏返して軽く焼き目がついたら、皮目にかからない高さまでお湯を注ぎ、お湯がなくなるくらいまで煮るように焼く。