野球賭博問題 京介よ、お前もか

「ブルータス、お前もか。」 皆さんも一度は耳にしたことがあるでしょう。古代ローマ帝国の独裁者カエサル(シーザー)が厚遇していた元老i院議員ブルータスに刺殺された際、腹心までもが自身の暗殺に関わっていたことで、発せられた言葉とされています。そこから転じて、身内や信頼していた人間から裏切られることを指す格言になりました。

今回、新たに1名の選手が関与していたことが発覚した際、筆者の頭には冒頭の格言が浮かびました。一軍でも活躍していた投手も関わっていたということで、病巣は巨人に限らず球界全体に広がる根深いもののように感じています。今回以降の対応策で膿を出し切ることはできるのでしょうか。ということで今日は、良くも悪くも進展のあった巨人の野球賭博問題について考えていこうと思います。

11日、巨人は新たに就任した老川祥一・球団取締役オーナー(読売新聞グループ本社取締役最高顧問・主筆代理)の記者経験を行いました。冒頭、老川オーナーは「大変な信頼感の喪失を招いた。」とファンや球界関係者に謝罪し、「体制を立て直し、巨人軍の信頼を回復したい。」と話しました。こちらも新たに就任した松田昇・取締役オーナー代行は球団を通じて、「私に託された使命は、球団の規律の確立である。」と語り、トップ自ら球団の問題を一掃する覚悟を見せましたが、同日、都内で取材に応じた今回の問題の調査を行っているNPB調査委員会の大鶴基成委員長は25日の開幕までの全体像は解明は「とても無理。」と語っており、信用回復に向けた球団フロントの理想と現実の乖離は思った以上に根深いことが窺えます。

今回の球団トップの交代の原因は他でもなく、選手の野球賭博への関与です。昨年10月に笠原将生元投手(2008年ドラフト5位・福岡工大付属城東高)含め3名の選手の関与が発表され、11月に無期失格処分が下されたことが記憶に新しい中、今月になって新たに高木京介投手(2011年ドラフト4位・国学院大学)の関与が明らかになりました。昨年発覚した3名は二軍での出場が中心の中、高木投手は昨シーズン一軍で33試合に登板し、防御率は2点台、117試合連続負け投手無しの日本プロ野球記録を更新するなど、将来に期待のかかる左腕でした。巨人ファンで左利きの筆者にとってお気に入り選手の一人、そんな選手が何故、という思いを持つ一方、我々ファンの責任も感じています。今日も主題はファンの責任です。

いくらプロ野球とはいえ、華々しい舞台に立てるのはほんの一握りです。二軍の試合のスタンドはガラガラで、甲子園のスター選手でもなければ、はっきり言えば地味で注目は集まりません。昨年発覚したした選手は2軍暮らしが中心、その中で気の緩みがあったのかもしれません。今回の高木投手も一軍出場が多いとはいえ、今シーズンは敗戦処理が中心。負けが決まった試合では帰宅を始めるファンも目立ち、応援も陰りを見せます。お恥ずかしい話、筆者も帰るか、チャンネルを変えてパリーグの試合を見ます。そんな環境下では一軍選手も二軍選手と同様の心理状況に陥っていたことが考えられます。ファンの責任とはこういうことではないでしょうか。もちろん悪いのは選手本人ですが、一軍二軍を問わず、最後まで声援を送っていれば、選手に誤った道に進ませることを防げたのではないかと感じずにはいられません。自分たちは好きな時に好きなだけ応援して、選手の管理や指導は球団任せ、これでいい訳がありませんよね。ファンにも球団を守るためにそれ相応の責任があるはずです。

部活をされていた方なら想像できるかもしれませんが、ファンの声援を受けるということは力になるだけでなく、監視の機能があります。応援される側にはそれ相応の責任感や心理的なプレッシャーが加わります。責任感を感じることで不正に手を染めないという意識を植えつけることにつながるでしょう。二軍の選手や敗戦処理の投手にもお前も巨人の一員だという気持ちを込めた声援を送ること、それは自分たちの愛する球団を良い方向にもっていくためにファンができる唯一の策であり、どんな不祥事をも防ぐ万能薬になるのではないでしょうか。

同じ紙面に今年のスローガンが掲載されていました。「巨人軍、一新」 これが皮肉にならないようにするためにも、そして王座を取り戻すためにも、球団と選手、そしてファンも一心同体になってシーズンに臨みましょう!

参考記事:12日付読売新聞朝刊(東京14版)21面(スポーツ面) 「野球賭博 老川新オーナーが会見」より