アーティストの「顔出し」は必要か? 令和のヒットソングを聴く

2023年が始まって、早くも1ヶ月が経とうとしています。久しぶりに帰った実家で、紅白歌合戦を観たのが1ヶ月も前だなんて、にわか信じられません。年末の紅白で最も目を引いたのは、アニメキャラクターの姿で登場した「ウタ」でしょうか。映画『ONE PIECE FILM RED』の登場人物である彼女がNHKホールで熱唱する様子を見て、こういう音楽のあり方がNHK主催の国民的な番組で受け入れられるようになったのだと、時代の変化を感じました。

今日付の日経新聞に、顔出しをしないアーティストの特集する記事がありました。顔出しをしないとは、素顔やプロフィールを公開せずに活動することです。今ではこのようなアーティストの楽曲が、ヒットソング上位100曲の1割ほどを占めるといいます。先ほどの「ウタ」というキャラクターの歌声を担当したAdoという歌手もその1人です。他にも、若者の間で人気のある、少なからぬアーティストが、顔出しなしで活躍しています。

何者か分からないのにアーティストを応援できるのか、親近感を抱けるのか、ライブはどうするのか。そんな疑問を持つ人も多いかもしれません。しかし、これらの点は、意外にも大きな問題にはならないと言います。

みなさんが新しい音楽に出会う場所はどこでしょうか。日々どのように音楽を聴くでしょうか。紙面で紹介されていた調査結果によれば、音楽を聴く手段として最も多いのはYouTube、新しい音楽を知る場はTikTokだということです。

これらの媒体では、音楽以外の部分もコンテンツを形成する重要な要素になります。たまたま流れてきたTikTokのダンスを練習していたら、音楽も好きになった。YouTubeで見たミュージックビデオの雰囲気がかっこよかった。そんな入り方だったなら、演者が顔を出しているかどうかは、大きな問題ではありません。逆に、顔を覆う仮面が、ミュージックビデオの雰囲気に合致していてお洒落なことさえあります。顔出しをしている人でも、歌ったり演奏したりする情景ではなく、曲のイメージを伝えるような映像を、ミュージックビデオで使用することがあります。そう考えると、アーティストの顔や素性は、その世界観を形成する一要素でしかないような気がしてきます。

さて、ライブはどうするのでしょうか。心配は必要ありません。顔出しをしないアーティストには、顔に仮面をつけた状態で、顔出しをするアーティストと同じようにライブをするケースが多くあります。そもそも、大きい会場だと、本人が顔を出していたところで、顔など見えません。遠くの豆粒です。それをある程度分かった上で、一体感と会場の熱を味わうために行くのですから、ライブにおいて顔出しの有無はさほど重要ではないでしょう。

ヒットソングのあり方が、変わってきています。顔を出すか出さないか。アーティストが選択できるのが、当たり前の世界になってきているのかもしれません。

 

参考記事

30日付 日本経済新聞朝刊(東京)20面「変わるヒットソングの常識」