一部の県営住宅には「空き部屋」が多いことを知っていますか?

私は最近、アルバイトで住宅のポストにチラシを入れる仕事をしている。紙を一枚一枚めくらないといけないから手袋をすることができず、今日のように日中でも0℃近い日は指先の感覚がなくなる。

でも、いろいろ学ぶことも多い。ありとあらゆる家を回るから、どんな人々がどんなところに住んでいるのか知ることができる。郵便受けへの投函すら日本郵便やクロネコヤマトなどの限られた業者しかできないようなセキュリティが徹底されたマンションもあれば、カメラもマイクもなく、呼び鈴だけで済ませているアパートもざらにある。貧富の差はここまで開いているんだ、と驚かされる。

数多くのマンションを巡る中で、公営のアパートは比較的空き部屋が多いと感じた。民間の不動産会社が管理する住宅にも空き部屋はあるが、一部の公営団地とは比較にならない。

福岡市東区にある県営高須磨団地。最寄りの福岡市営地下鉄貝塚駅からは徒歩12分と立地は悪くないが、カーテンが掛かっていない部屋が目立つ。一部の郵便受けの投函口は緑の養生テープでふさがれていて、「空室」と書かれている。数を数えると、全488部屋中、84部屋に上った。率にして17.2%。

8世帯が入るマンションを経営している知り合いにこの数字を伝えたところ、「それは県だからやっていけるんだよ。民間だったら相当きついやろうね」と教えてくれた。

高須磨団地の住人も、空き部屋の多さには少々驚いている様子だった。5年ほど前に団地に越してきた高齢の男性は筆者の取材に対し、「僕が来た時と比べて随分人が減ったなという印象」とおっしゃった。「年寄りが多いから、そういう人たちが亡くなっているのか、それとも県が新たに入れずに空き部屋をつくっているのか」と不思議がっている様子だった。

「県によってわざと空き部屋がつくられている説」は他の住人からも聞かされたので、団地を管理する福岡県に尋ねた。すると特にそのような意図はなく、いつでも入れるようにしているとの回答だった。ただ、供給過多の現状を変える方針は今のところないらしい。

空き部屋があると、当然ながらコストパフォーマンスは悪い。でも、デメリットばかりではない。例えば、2016年の熊本地震の際には、被災者の方の一時的な住み家として役立った。また、難民として日本に逃れてきた方のためにも役立っている。具体的な団地名と人数までは明かさなかったが、県によるとウクライナ難民の方も住んでいるそうだ。

⇧福岡市東区の県営高須磨団地。10棟ある(23日、筆者撮影)

平時のコスパを重視するか、それとも非常事態の時を想定した余裕を優先するか。この判断はなかなか難しい。

これは公営住宅の空き部屋に限った話ではない。例えば、市町村によるゴミ収集車の運用もそうだ。近年はコストカットを理由に行政の業務の一部を外部に委託する流れがかなり広がり、家庭ごみの回収などは民間業者に任せる自治体がある。多くの場合、入札制をとるから市が直接手掛けていた時よりも費用が抑えられ、一見メリットしかないようにも思える。しかし、非常の際に臨機応変の対応がとりにくいことが問題視されている。例えば、自分の街や近隣で自然災害が発生して災害ゴミの回収が必要になった時、ゴミ収集車を所有していない市は民間業者を介さなければならないため、対応が遅れがちになる。

 

「役所に入ってみて思うんやけど、予算にしても何にしてもほんとよく考えてつくられとるわ」。九州のとある街の市役所で働く知人の言葉だ。

赤字国債の発行残高がどんどん増えている日本の財政状況は、20年以上前からずっと変わらない。限られた予算の中でどう工面するか。完璧ではないかもしれないがある程度検討されてきた。

それでも、「改革」を掲げるリーダーの下、コストカットは今でもしょっちゅう行われる。国についても、岸田首相は23日の施政方針演説で「5年間で計43兆円の防衛予算を確保する」と述べ、その一環として3兆円強の歳出改革が今後進められる予定だ。増税するか国債を発行するかで論争になっているが、注目すべき点はそれだけではないと思う。

どうしてこのタイミングでコスト削減ができるのか。その副作用は何なのか。私たちは費用を減らすように迫るだけでなく、それがもたらす結果を注意深く見る冷静さも併せ持つ必要があるだろう。

 

参考記事:

1月22日 朝日新聞デジタル「(社説)防衛費の財源 非現実的な想定やめよ」

1月20日 朝日新聞デジタル「防衛費増、いびつな財源 歳出改革に玄海、一時収入頼み 自民が議論開始」

2022年5月29日 朝日新聞デジタル「ウクライナ避難者に『異例』の支援 政府に訴えたい難民政策の見直し」