語り継がなければならない元慰安婦たちの声 映画「金福童」

先週、韓国・京畿道広州の「ナヌムの家」を訪れました。日本軍の従軍慰安婦だった数人のハルモニ(韓国語でおばあさん)が居住する施設です。慰安婦の歴史について学べる展示館も併設されています。彼女らの人生を辿る展示や、ハルモニが当時の記憶を頼りに描いた絵は見応えがあり、改めて慰安婦問題に真剣に向き合うきっかけとなりました。

しかし、この施設をめぐっては運営する法人による寄付金の横領や、ハルモニへの待遇の酷さなど様々な疑惑があります。運営側がハルモニに自由な発言を許していなかったと報じられてもいます。慰安婦の悲惨さをことさら強調することで世間の同情を引き、寄付を集めるその卑劣な手段は、同時期に問題となった慰安婦支援団体「正義連」とともに韓国国内でも批判を集めました。日本と韓国の対立を激化させる一因でもあったと言えると思います。

そのような金銭目当ての団体とは異なり、ハルモニ達は日本との対立ではなく心からの謝罪を受けること、そして今後ウリナラ(私たちの国=韓国のこと)の女性たちが二度と同じ目に遭わないために史実を明らかにすることを望んできました。日本も韓国も、当事者であるハルモニ達の声に耳を傾ける必要があると思います。

しかし、高齢になられ、亡くなられた方も多いため、直接ハルモニからお話を伺える機会が減ってきています。被害者の声を聞かずに慰安婦問題を考えることはできません。直接聞けなくとも肉声を記録に残そうと、2019年に韓国で1本のドキュメンタリー映画「金福童」が作られました。慰安婦慰安婦問題を世界中で語り続け、2019年1月に亡くなられた元慰安婦の金福童さんを、生前に密着取材した作品です。

コロナの影響で日本での公開が延期されていましたが、今月からついに日本各地で上映会が開かれます。またとない機会なので、ぜひ足を運んでみてほしいものです。特に、慰安婦問題を「捏造だ」と罵る人にこそこの映画を見て、金福童ハルモニの想いと向き合ってほしいと思います。この作品を見てもなお、映画の中のハルモニ達を罵倒する人々に賛同できるでしょうか。慰安婦問題に向き合う日本人に「売国奴」という言葉を投げることはできるでしょうか。

日本では、慰安婦や南京大虐殺などの存在を否定する歴史修正主義的な声が大きくなってきています。歴史は、専門家でなければ一次資料に接することが難しい領域です。そのため、私たち一般市民が、歴史判断について客観的に判断を下すことは難しく、権威ある人物が歴史を歪めるような発言をすればそれを信じ込んで人が増えてしまいます。

しかし、強制連行があったか否かが論争になっているとはいえ、慰安婦が存在したことは専門家も含め誰もが認めるところです。金福童ハルモニのように思い出したくもない辛い記憶を、次の世代に残すために語り続けた人もいます。筆者は、自国にとって都合の悪い過去を否定するのではなく、彼女らの声に耳を傾け、今後世界で同じことを起こさないためにはどうしたら良いのか考えたい。それが、未来のために人生を捧げたハルモニの願いを繋ぐことだと思います。

最後に、筆者が高校の倫理の時間に学び、以後ずっと大事にしている言葉を紹介します。

過去に目を閉ざす者は結局のところ現在にも盲目となります。非人間的な行為を心に刻もうとしない者は、またそうした危険に陥りやすいのです。

ドイツのヴァイツゼッカー元大統領が、自国の敗戦から40年の節目に語った言葉です。二度と過去の過ちを繰り返さないために私たちができることは、歴史から目をそらさないことです。

 

参考記事

1月18日付 朝日新聞「元慰安婦の足跡描いた映画『金福童』、21に東京・中野で上映会