2023年 新聞各紙の正月紙面は…

新聞社は毎年元日の紙面でその年の展望や課題を提示します。政治部や経済部、社会部など各部門が総力を上げて執筆するので読み応え満点です。今年も朝日、読売、日経、三社三様の色が表れました。

朝日新聞は『誰もが孤独の時代 人間性失わないで』という見出しで、旧ソ連出身の作家アレクシエービッチ氏の記事を1〜2面に掲載しました。氏はロシア・ウクライナ戦争を「人から獣が這い出す戦争」だと表現しています。非人道的な独裁を抑え、絶望の淵に立つ人々が救われるには、孫の頭を撫でる、朝一杯コーヒーを飲むといった、些細な人間らしい行動が重要だと述べていました。

社説では、仏クルーセや英ベンサム、独カントらが構想した国際秩序維持のための構想や、世界大戦後に創設された国際連盟、国際連合の歴史を紹介。そのうえで、人類の英知を結集させて戦争を止めなければならないと論じました。具体的な出口戦略について載っていなかったのは残念です。

読売新聞は『平和な世界構築へ先頭に立て 防衛、外交、道義の力を高めよう』と題した社説を発表しました。同紙も戦争に言及したうえで、「独裁者が二度と暴走しないようにすることが、新しい秩序作りの出発点だ。そのための第一の方策は、勝てるという錯覚を相手に抱かせないことだ」と主張しています。日本政府が防衛力の強化策を発表したことを肯定しつつ、外交力を駆使して国際世論をリードしていくべきだと強調しています。

4面は岸田首相のインタビュー記事。今年も「新しい資本主義」を着実に実行していくようです。政府主導の経済・産業政策は昨今、多くの先進国が推進しているものであり、政策の方向性自体は間違っていないと思います。しかし岸田首相の場合、政策の内容だけでなく「話す力」を磨くことも重要な課題です。その改善がなされない限り、国民の信頼は回復しません。

日経新聞は、米中対立やウクライナでの戦争によって分断の嵐が襲う世界の現状を踏まえて、今後は経済的な利益とフェアネスによってグローバル化が進んでいくとしています。人権尊重や貿易自由度、環境などの項目を基に開発した指数によると、日本は84ヶ国・地域中11位。大国間の分断やブロック経済圏の結果、世界大戦が二度起きたことに触れ、民主主義と権威主義の二項対立を超克した新しい世界を作っていく必要があるとしています。

「フェアネス」は曖昧かつ定性的な概念ゆえ、世界中の人々が納得して受け入れるのか疑問は感じます。西側諸国ほどスコアが高く中露のスコアが低いので、従来の民主主義指数と大差ないといった問題点もありますが、非常に面白い構想だと感じました。経済的な利益とフェアネスの両立は、経営学者の伊藤邦雄氏が提唱する「ROESG」すなわちROEとESGの両立に通ずる概念でもあります。

人道主義の朝日。防衛力重視の読売。フェアネス指数を開発した日経。各紙の主張は様々ですが、共通しているのは国際秩序を再構築していかねばならないという危機感でした。ロシア・ウクライナ戦争は終結に向かうのか。未曾有の円安やインフレ、加速する少子化に日本社会は歯止めをかけることが出来るのか。今年も世界各地のニュースを注視していきます。