「30日までに提出してね」はいつまで? 常識との戦い

年末年始は実家でこたつに入ってみかんを食べ、特番を見る。筆者のささやかな夢はあっけなく崩れ去り、ずっと卒業論文の締め切りに追われていました。教授が指示した提出期限は「12月30日まで」。さて、これはいつまでのことを指すのでしょうか。

4年間の大学生活で幾度となく締め切りと戦ってきました。ギリギリにならないとやる気が出ないという怠慢な性格が一番の敗因ですが、「提出まであと5分!」と提出前に焦りまくる様はもはや学期末の風物詩。毎回間に合ったのをいいことに、一向に改善できませんでした。課題と戦っているのか、時間と戦っているのか、思い返せば反省しかありません。

授業の提出物のほとんどは学生用サイトからオンラインで出します。提出用ボックスにファイルをアップロードして完了。電子での管理なので、締め切りの何分前に提出できたか、もしくは何分遅れたかがログとして残ります。一方で、おそらく受け手に通知が届くことがないはずなので、先方の事情を考えずにすみます。提出時間が日付の変わる直前の23時59分でも気にする必要はありません。間に合えばよかったからです。

しかし、卒論ばかりはそうもいきません。メールにファイルを添付して教授のみに提出です。提出時刻は隠しようもありません。それに先生の都合もあるでしょうから、時間帯を考慮しなければなりません。

30日までとされているものの、23時59分までに送ればいいということなのでしょうか。こんな深夜ではメールを確認しないでしょうから、「30日までに」受け取ったことにならないかもしれません。受け取って少し目を通すことを想定すれば、17時ごろまでの提出が望まれるでしょう。しかしギリギリまで粘りたい。結局は12月30日23時57分。「59分はちょっとギリギリすぎるかな」と自分に言い聞かせ、締め切り3分前というあまりにもささやかな「余裕」を持ってメールの送信ボタンを押し、卒論を送り出しました。

23時57分に送信作業を始め、58分に完了。ファイルを添付したメールは送信完了まで時間がかかるので、余裕をもって送信しなければならない。(31日筆者撮影)

さて、教授がこの時間での提出をどのように受け止めたかは定かではありません。筆者が思うに、社会人なら完全にアウトです。学生だからというお情けは、来年以降会社で働く筆者には通用しなくなります。常に相手がいて、自分の都合だけで振る舞うわけにはいきません。例えば取引先へのメールや資料の送付は、営業時間内、しかも営業時間終了間際ではなく1時間ほど前までには送っておきたいものです。直前では内容確認のために受け手が残業しなければならなくなるかもしれないからです。

待ち合わせもそうです。「10時に集合ね」と言われたときに、10分前を考えるのか、5分前、ちょうど10時、3分遅れでもいいなど人それぞれです。「5分前集合」と口酸っぱく言われてきた小中学時代とは異なり、今は誰も言ってくれません。待たせてはいけないという思いから早めに着く人もいますが、待ってもらう側は申し訳ない気持ちになります。どうすればいいのでしょうか。自分が後だった場合には「おまたせ、ごめん、待った?」と聞くようになりました。

これらの時間感覚は誰かに習うものではありませんし、決まりがあるわけでもありません。しかし生活をしていると、暗黙の了解やマナーがいたるところにあると感じます。「常識」とずれていた場合、失礼にあたったり、信頼を失ったりするかもしれません。自分で考えて行動するしかないのです。

日本語には非常に曖昧な「期限」や「期間」を表す言葉が多くあります。「年末」はいつからか、「年始」はいつまでか。「最近」はどこまでを指すのか。「年末までによろしくね」「急ぎでやってほしい」と言われたら、相手の意図が分からないため難しい判断を迫られます。どのぐらいのゆとりを想定しているのか、その真意を想像しなければならない場面が多くあります。セイコー時間白書2022年によると、時間に追われる感覚が強まった人や、1日24時間では足りないという人が増加しているようです。自分には時間がない、けれど相手にとっても同様で、本来の意味での余裕が欠かせません。

相手の性格、普段の様子、常識、自分が持つ情報すべてを総動員して、はっきりと聞く聞かないも含めてすり合わせていかなければならない。探偵になった気分です。このようなことを考えなくてもいいように、来年はゆとりを持った1年にしたいと思いますが・・・。

 

参考記事:

30日付 朝日新聞朝刊(兵庫14版)1面「時間効率 求めて追われ」

参考資料:

セイコー時間白書2022