クリスマスが近づいてきた。インスタグラムは、幸せ自慢大会の場と化している。SNSの幸福な自己演出に辟易している人も少なくないだろう。波乱万丈な人生の中で幸せな一瞬だけを切り取ってストーリーでおすそ分け。その瞬間の裏には、涙を流して泣いた日だって、何もかも諦めてしまいたくなるほどの挫折を味わった日だってあったかもしれない。しかし、裏で起こった人生の苦労や悲しみなんて、ショーを見ている観客には知る由がない。
SNSを見ている側は、一部のきらびやかな光景をまるでその人の日常かのように錯覚し、自分の退屈な日々と比べて、勝手に落ち込む。「SNS断食」や「ソーシャルデトックス」という言葉が生まれたのも、そういったSNSによる他人との比較に嫌気がさした人々が増えたことが一つの原因だろう。
◇リアルな私を共有する新アプリ「BeReal」
そんなインスタに苦手意識を持つ人々の間で「BeReal(ビーリアル)」という新しいソーシャルメディアが今まさに人気を集めている。BeRealとは、名前の通り加工や取り繕いの一切ないありのままの姿をシェアしようというコンセプトである。
1日1回ランダムな時間にBeRealから写真を撮るようにと通知が来る。すると、ユーザーはその時の「リアルな」写真をアップロードしなくてはならない。
筆者も早速アプリをインストールしてみることにした。まずは、名前と電話番号の登録が必要。その後ユーザーネームを登録すると始まる。連絡先とリンクさせると既に友人の候補が出てくるので仲のいい友人を追加することが可能だ。お試しで使うだけなので、今回は友達を追加せずに進めてみる。
インストールしてすぐに早速BeRealから写真をアップロードするようにと要請が来た。何も用意していない無防備の状態のまま、内カメラと外カメラの両方でシャッターが押される。撮り直しもできるらしいが、加工機能などはない。撮り終わったらすぐにアップロード。使い方はいたってシンプルだ。
突然の要請だったので、デスクで作業をしていた時のパソコンと共にメイクも特にしていない自分の写真を送信。たしかに、急に写真を撮るように言われるのであれば準備のしようがないため、より素の状態に近い自分をシェアすることができる。まさに「Be Real」であった。
◇本物の日常のシェアに懸念も
このアプリの登場によって、SNSで自分を良く見せようとする行為はなくなるのか。むしろ、SNSに載せなくてはならないという義務感から、毎日無理をして友人と会ったり、外出をしたりするという人が増えるような気もする。
筆者自身、アップロードした写真を見返して、あまりにも面白みのない投稿に苦笑した。ただのPCとすっぴんの自撮り。外出しない期間であれば、この風景の投稿が3日続くことだって考えられる。
実際、人のReal(現実)の世界は、そんなに面白いことで溢れていない。その現実味を帯びたつまらなさこそが、このアプリの醍醐味なのかもしれないが、もし友人が毎日楽しそうな写真を投稿している一方で、自分だけ部屋に籠りきりの毎日だったとしたら。本当に“現実”に耐えることができるだろうか。
無理にでも用事を作って、充実している日常を演出する人が出てきてもおかしくない。事実、「そろそろBeRealの写真の時間が来そうだからどこかへ行こう」と日常的にこのアプリを使用するメキシコ人の友人に言われたこともある。
結局、アプリそのものではなくて、使う人のマインド次第なのではないか。今の時代、SNSでは映えないような退屈な日常の中にいかに幸せを見つけることができるかどうかが、その人の本当の幸福度を決めるのかもしれない。
果たして日本人にBeRealは受け入れられるのか。もうしばらくこのアプリの行く末を見守っていきたい。