ACジャパン50周年の歴史と変動する社会問題

3月11日の東日本大震災発生後、多くの企業がテレビやラジオの広告枠をACジャパンの公共広告に差し替えました。金子みすゞの詩や「ポポポ~ン」というユニークな歌が印象的な映像は、いつものCMが流れるようになるまでの間、何百回と繰り返し見たことで、当時小学生だった筆者の記憶に鮮明に刻まれました。

2日前の読売新聞夕刊「よみうり寸評」に、現在放送中であるACジャパンのテレビCMについての紹介がありました。

コンビニのレジの前で、高齢の女性が財布から小銭を出すのに手間取っている。ちょっと悪そうな男が後ろでラップを歌い始める。「YO! もしかして焦ってんのか おばーさん。誰も怒ってなんかない アンタのペースでいいんだ 何も気にすんな」。公益社団法人ACジャパンのCMだ。

このCM、一度は目にした人が多いのではないでしょうか。Twitter上でも好意的に受け止められ、トレンド入りしました。感心したのは、聴覚障がい者に配慮し、手話と字幕の両方を入れていることです。お馴染みの「エーシー」というフレーズも、手話で表現されています。CMの最後に流れる「たたくよりたたえ合おう」というメッセージからは、相手を尊重し認め合うことの大切さが読み取れます。

新聞広告(ACジャパン公式ホームページより引用)

公共広告について調べました。公共の福祉や社会改革のため、あるいは緊急な社会問題解決のため、公共機関や民間組織が市民に理解と参加を呼びかけて展開する広告コミュニケーション活動とのことです。その公共広告、日本ではACジャパンが制作しており、昨年創設50周年を迎えました。

その活動や歴史とともに、広告作品約220点を展示する「ACジャパン50周年広告展~つなげよう「気づきを、動きへ。」~』が、24日まで東京・汐留のアドミュージアム東京で開催されています。この展示会に、広告を眺めることが好きな筆者は何度も足を運びました。11月30日の朝日新聞デジタルは、ACジャパンの広告について、「人々にマナーを呼びかけ、いじめなど社会問題にも切り込んできた広告の数々は、それぞれの時代を映し出す鏡」と評価しています。実際に過去から現在までの作品を鑑賞する中で、いずれの時代も解決すべき課題が山積みだったことを実感しました。

ACジャパン50周年広告展(6日筆者撮影)

ところで、ACジャパンの活動は、会員の発案で企画・制作・実施される「全国キャンペーン」「地域キャンペーン」と、公共福祉活動に携わる非営利団体の広告活動を支援する「支援キャンペーン」で構成されています。筆者は2000年度から22年度までの「全国キャンペーン」全61本のテレビCMのタイトルとテーマをグラフにしてみました。長期にわたって取り組むべき「支援キャンペーン」の課題と異なり、「全国キャンペーン」では、テーマや広告の目的など制作に関するポイントを絞ってから取り組むため、より世相が反映されやすいと考えたからです。

2000年度から22年度までの「全国キャンペーン」テレビCM(公式ホームページとACジャパン50周年広告展のアーカイブ作品を基に筆者作成)

グラフを見ると、扱うテーマは重なっていることが分かります。「親子」「教育」「環境問題」「公共マナー」といったテーマが2000年初期に集中しています。これは、地球温暖化が幅広く意識されたり、少年犯罪の厳罰化を意図した少年法改正案が施行されたりしたからだと考えます。11年の東日本大震災を機に3年あまりは「思いやり」や「助け合い」といった人と人とのつながりが重視されました。近年は、食品ロスやプラスチックゴミをなくすなど持続可能性の視点からの啓発が盛んであることが読み取れると同時に、「児童虐待」や「防災」「歩きスマホ」「ネットモラル」など、過去に見られなかったテーマも増えています。このうち「歩きスマホ」「ネットモラル」は、便利な世の中になった反動でしょう。

いつの時代も抱える社会問題はそれぞれで、時が経つにつれて変化が見られるということが分かります。ACジャパンが手掛ける公共広告は、そんな時代をくみ取りながら、どうしたら視聴者の心に響くのか常に試行錯誤している、まさに「時代を映す鏡」だと言えます。コロナ渦で社会に不安が広がる世の中だからこそ、ACジャパンの取り組みに期待が膨らみます。

参考記事:

11月30日 朝日新聞デジタル 「ハッとホッと、いま映すCM ACジャパン50周年、企画展」

17日 読売新聞夕刊 埼玉4版 1面 「よみうり寸評」