神戸刑務所を見学して

皆さんは刑務所と聞くと何をイメージしますか。檻、囚人服、犯罪者、治安悪い、汚い…普通あまり良い印象はないですよね。私も懲罰を科す場所という印象が強く、それ以外のことを知りませんでした。しかし先週、刑事学ゼミの一環で塀の中を見学する機会をいただき、イメージがガラッと変わったので感想を記したいと思います。

神戸刑務所は明治初期から存在する歴史の長い刑務所です。元々神戸市内に立地していたものの、戦時中に現在地の西明石に移転します。昭和末期から平成初期にかけて改修工事が行われ、その際に舟形の本庁舎と大型の門が建築されました。内装こそ質素ではあるものの、全体的に非常に立派で堅牢な作りになっており、バブル景気の香りが漂います。

まずは所長から歴史や組織構造、運営、収容者の概要などについてお話を伺いました。現在、刑務所には約1000人が収容されていますが、日本全体の刑法犯罪件数の減少に伴って人数は少しずつ減っています。年齢は20代前半から80代後半まで。外国人も一定数おり、日本語がうまく話せない方やヒンドゥー教徒やユダヤ教徒のように食事の配慮が必要な方も。犯罪歴は窃盗や薬物から暴力団の抗争絡み、性犯罪、殺人まで様々で、無期懲役の服役者は10人弱います。

刑務所は日本社会の縮図であり、(専用刑務所にいる女性や少年を除いて)ありとあらゆる属性の人間が暮らしているようです。当然のことかもしれませんが、大学で同年代の同質な人間ばかりとつるんでいる筆者には新鮮な感覚でした。刑務官は個々人の性格や知能体力、犯罪歴などを把握して適材適所の配置を行いつつ、刑務所全体としての統率や受刑者間の平等も図らなければなりません。所長は非常に明るくユーモアがあり包容力と威厳も兼ね備えた方でしたが、このような人格者でないと仕事は務まらないだろうなと思いました。

次いで所内の木工や裁縫、革靴、自動車整備の工場、厨房などを見学。受刑者は私たち見学者が来ても手を休めることなく、刑務官の監視の下黙々と作業に従事していました。製品は所外に隣接する展示場で販売されています。プロの職人に勝るとも劣らない品質です。自動車については受刑中に国家資格の整備士3級と2級を取得できます。刑務所では懲罰を加える機能よりも、社会で有為な人材となれるよう職業訓練を施す機能がより重視されていることを実感しました。職安のスタッフも常駐しており、出所後の就職を斡旋しています。

法務省大阪矯正管区の紹介パンフレット(創刊号・令和4年4月発行)より

また、所内の至る所が清掃されており、床には輪ゴム、紙切れ、鉄屑1個たりとも落ちていません。自殺や私信のやり取りを防止する目的で実施されています。若干息苦しいかもしれませんが、清潔な空間で暮らせば心も落ち着くだろうなと思いました。

コロナ感染を防ぐため、受刑者が寝起きする居室などの生活空間は見学できませんでした。刑務官から聞いたところによると、テレビやラジオ、新聞は内容を問わず自由に見聞きできるそう。バラエティ番組やスポーツの試合を見ることも可能。出所後に浦島太郎にならないよう、人権の配慮がなされていることが窺えます。

大学という狭い場所に住む筆者にとって、別の世界を見れたことは非常に良い経験でした。刑務所は娑婆から隔絶された闇社会ではなく、むしろ社会の重要な一部です。私たちと同じ人間が暮らしています。刑事司法に関わる仕事に就く予定はありませんが、もっと外の世界を知って視野を広げていかなければならないと痛感しました。

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