ドライブの秋  EVの流れ、自動車メーカーの未来はどうなる ?

最近は秋晴れの日が続き、絶好のドライブ日和です。首都圏の紅葉はまだ見頃とはいえませんが、旅行支援制度を使って山や海などへ遠出している人も多いのではないでしょうか。筆者も彼女と一緒に関西や四国へ一週間の車旅をしてきました。乗った車はBMWのM2コンペティション、彼女の愛車です。全長4475mm全幅1855mm全高1410mmとMシリーズ(BMWのスポーツカーシリーズ)の中では最もコンパクトな車体に載せられたエンジンは3リッター直列6気筒DOHCエンジン、最大出力は450馬力を超える、圧倒的な力を秘めています。エンジンのスタートボタンを押すだけでまるで爆発音かのようなエンジン音が鳴り、アクセルを少し踏むだけでその獰猛な加速力を見せつけてくれます。ガソリン車のスポーツカーならではの楽しみを満喫した一週間でした。

 

M2コンペティション 筆者撮影

 

そんな車のあり方は、脱炭素化の流れに伴い大きく変容しつつあります。先月27日、EU(欧州連合)は2035年にガソリン車などエンジンを搭載した車の販売を事実上禁止すると発表しました。16年から北欧などではガソリン車やディーゼル車の新車販売が禁止されています。アメリカでも、カリフォルニア州やNY州などは将来的にハイブリッド車や燃料電池車、電気自動車以外の新車販売を禁止するとしています。今回のEUの決定ではハイブリッド車も禁じられるのでアメリカよりも厳しい規定となります。

世界的なEV車へのシフトに対応するために、自動車メーカーは対応に追われています。EVといえばアメリカのテスラが有名です。また、高級車メーカーとして知られているメルセデス・ベンツも100%EV車のEQシリーズを展開しています。先日、EVラグジュアリー車のEQSモデルが発表され、話題を呼びました。その他にもBMWであればiシリーズ、アウディであればe-tronなど有名自動車メーカーはそろってEV車のフラッグシップモデルを用意しています。

国内メーカーはどうでしょうか。日産はリーフやサクラ、アリアの三種類のモデルを展開しています。中でもサクラは今年6月16日に発売開始となってから2ヶ月で受注台数2万2000台を超える大人気車種です。日産はある程度EVへのシフトに成功していると考えられます。ホンダではHonda e、マツダではMX-30 EV MODELがあります。

一方のトヨタは、EVという文脈ではあまりぱっとしないのが実情です。bZ4Xというモデルがありますが、エアバッグが正常に作動しないおそれや、走行中にハブボルトが緩みタイヤが脱落するおそれがあるなどといった問題があり、リコールを届け出しています。また、従来の計画ではEV市場の急速な拡大に対応できないとし、30年までにEV30車種を揃えるとしていた計画を見直すそうです。ロイターによると、収益の目処が立たないことや、競合各社が新技術を素早く積極的に投入することが原因だといいます。トヨタは遅れているEV事業をいち早く立て直し、競合他社に対抗できるだけの商品を開発する必要があります。

トヨタがEV競争で優位性を築くためには、日本ものづくり産業特有の構造的な問題を解決しなければならないと思います。自動車産業は「インテグラル(すり合わせ)・アーキテクチャ」の色合いが強くあります。これは、機能と部品が多対多の関係性にある構図を指します。例えば、自動車の走りやすさを良くしようとすると、エンジンだけではなく、サスペンションや車体の形状、空力特性など様々な要素を考えなければなりません。また、エンジン一つを取ってみても、ネジなど小さな部品を含めると約1万個の部品数があります。車全体としてみたときには約10万個の部品が必要であり、開発する際はそのすべてをすり合わせ、調整し、設計する必要があるのです。

そのため、自動車開発の際には、各部品のプロフェッショナルはもちろん、広範囲に知見を持つジェネラリストが調整に調整を重ね、長い時間をかけ一つの車を生み出します。日本メーカーがガソリン車で成功を収めた理由の一つとして、このすり合わせを円滑にするための組織づくりに成功したことが挙げられるでしょう。

一方で、EV車はこのすり合わせ作業が比較的少なくてすみます。EV車には複雑な内燃機関はありません。バッテリーとモーターさえあれば動きます。部品数は全体で約1万個とガソリン車の10分の1です。ガソリン車と同様に空力特性を考えた車体設計は大切ですが、重要となってくるのは、いかに電力の消費を抑えつつ快適な走行を実現できるかといった、車内システムの部分になってきます。これは車体というハードウェアではなく、内包されるソフトウェアの部分です。これをいかに改良していくかが重要になってきますし、ガソリン車のような長い調整時間が必要でない分、開発競争もハイスピードです。EV開発にシフトするのであれば、これまで以上にソフト開発の分野に注力するとともに、新技術に柔軟に対応する土壌が必要になります。

もちろん、EV車そのものに対する批判は多くあります。電気自動車を動かすには電気が必要であり、その電気を生み出すためには多くの化石燃料が必要になります。斎藤幸平・東京大学大学院准教授の『人新世の資本論』によると、電気自動車によって削減される二酸化炭素排出量は1%程度であるそうです。また、リチウムイオン電池を作るために限りあるレアメタルを採掘する必要がありますし、リチウムを入手するには大量の地下水が必要です。全体としてみたときに、本当に環境に良いのかは疑問ですが、それでも市場がEVシフトしているのだからEV車を作るしか無いのです。また、今後の技術開発の進展により、再生可能エネルギーでの発電効率がさらに高まり、新しい電池の素材が発見されるかもしれません。EV車にはガソリン車には少ない技術革新の余地が大いに存在します。

自動車関連産業の就業人口は552万人。日本の自動車産業が縮んでしまうと、多くの人が困ることになります。今後も日本車が世界に誇れるものであり続けるためにも、いち早くEV開発体制を確立してもらいたいものです。

 

参考記事

読売新聞オンライン 10月28日付 「EU、ガソリン車の新車販売を事実上禁止へ…2035年から」

https://www.yomiuri.co.jp/economy/20221028-OYT1T50102/

読売新聞オンライン 10月31日付 「トヨタ社長「EVは全てに勝る選択肢ではない」…電池の重要拠点で講演」

https://www.yomiuri.co.jp/economy/20221030-OYT1T50188/

読売新聞オンライン 11月1日付 「「脱炭素に挑戦」トヨタ社長誓う…豊田佐吉顕彰祭」

https://www.yomiuri.co.jp/local/chubu/feature/CO049151/20221031-OYTAT50029/

ロイター 10月24日付け 「トヨタ、EV戦略見直し検討 クラウンなど開発一時停止=関係者」

https://jp.reuters.com/article/toyota-exclusive-idJPKBN2RJ0NR

 

参考資料

一般社団法人日本自動車工業会 基幹産業としての自動車製造業

https://www.jama.or.jp/statistics/facts/industry/

斎藤幸平 『人新世の資本論』