企業のリスク委員会新設 実効性に疑問

OECD(経済協力開発機構)がコーポレート・ガバナンス(CG)原則の改定案を発表しました。1999年に公表された原則はG20でも承認されており、先進国から新興国まで世界中の政府や企業、投資家が参考にする先進的な国際標準となっています。今回は04年、15年に続く3回目の改訂で、時代の流れを反映した内容が示されています。

昨年改訂された東京証券取引所のCGコードと比較すると、気候変動や持続可能性、ESGに関する取り組みの情報開示や人材多様性の確保など方向性が重なる項目が多く見られます。しかし、今回の目玉であり東証のコードと異なる提案は「リスク専門委員会」の設置でしょう。

従来、企業の取締役会にはいくつもの委員会が置かれ、とりわけ指名、監査、報酬の3点で権限を発揮してきました。目的は株主や債権者、従業員など会社を取り囲む関係者(ステークホルダー)の利害を調整し、経営を安定させるため。端的に言い換えると、権力を如何にバランスよく配置し、企業の不正や経営の暴走を防ぐかが意識されてきました。

しかし、悪いことを防ぐだけの「守りのガバナンス」では、思い切った経営判断が下せません。失敗を避けるだけの消極的な姿勢では会社は衰退するのみ。日々刻々トレンドが激変していく現代社会において、社長ら経営トップは果敢にリスクを取っていかなければなりませんが、それだからこそ取締役会は必要に応じて手綱を締める必要もある。そんな背景からリスクに目を光らせる委員会の新設が求められるのでしょう。

どんな企業においても経営陣が常日頃からリスクについて考えるのは当たり前のことであり、取締役会で昔から論じられてきたテーマでもあります。コーポレート・ガバナンスの専門家の一人は「今さら委員会を作ったところで、リスク管理が向上するのだろうか」と実効性を疑問視しています。大企業ですら取締役は10人前後しかいないのに、その中の数人を選抜して委員会を作ったところで、国際政治経済から災害、サイバー攻撃、人事労務のトラブルまで広範にわたるリスクをカバーしきれるとは思えません。

委員会を立ち上げるとしても設立ありきではなく、まず何がリスクなのか具体的に分析したうえで、その分野に知見を持つ危機管理の専門人材を集めることが重要でしょう。社外取締役では弁護士や元官僚だけでなく、ICTの専門家や国際政治経済の研究者などが重用されるように思われます。委員会を既に設置している日本企業はあまり多くありませんが、SMBCグループの「リスクアペタイト・フレームワーク」は先行事例としてとても参考になります。

リスク委員会が今後広く普及していくのか。それとも机上の空論や形ばかりの組織で終わってしまうのか。一介の学生でビジネスのイロハすら知らない筆者には見当つきませんが、今後の動きを注視していきたいと思います。

参考資料:

10日付 日経新聞朝刊(京都13版)1面「リスク専門委設置推奨 企業統治、OECD原則案」

東京証券取引所(5月23日筆者撮影)