イランで22歳のクルド人女性Mahsa Aminiさんがヘジャブのつけ方をめぐり逮捕された後、急死するという事件が起きました。へジャブとは髪の毛を隠すスカーフのことです。イランでは1979年の革命以降、女性には国籍や宗教を問わず、公共の場所で着用することが義務づけられています。法律が定めた厳しいドレスコードに従わなければならないのです。
彼女の死を受けて、抗議運動が大きなうねりを見せています。そのなかで私に大きな衝撃を与えたのは、自ら髪を切り、それを高く掲げる女性たちの姿でした。一体何が起きているのだろうと強く引きつけられたのです。女性の権利を抑圧する政府。morality policeの存在。抗議する人々の姿。彼女たちが身を挺し訴えてはじめて、私の目に届くようになったのです。
“For the fears that are bigger than reality”
British-Iranian national Nazanin Zaghari-Ratcliffe cuts hair in support of Iran protestshttps://t.co/2CDy5GfTOD pic.twitter.com/5uguHeuzU2
— BBC News (World) (@BBCWorld) September 29, 2022
へジャブの着用の義務化が定められた43年前にも、女性たちはへジャブそして自らの髪を高く掲げ抗議していました。半世紀近くたってもこの光景が見られることに、胸が強く締め付けられます。
「髪を切る」という行為は、この運動のアイコンのように思えます。イラン政府に対する抗議とこの行為そのものが結びつき、運動の象徴となるのです。何かを伝えようとするとき言葉はとても有効な手段です。しかし、視覚に訴えるものは、ときに言葉以上の力をもちます。大きなインパクトを与え、人の目を引きつけて離さないのです。
なぜ彼女たちは髪を切るのか。
へジャブで髪を隠さなければ、女性の身の安全を守れないというのなら、髪を切ってしまえばいい?
身体の一部を切り取って見せることで、イランの女性が置かれている緊迫した状況を訴えたい?
彼女のために祈り、自らの髪をささげている?
スマートフォンの画面をスクロールする指が思わず止まります。「髪を切る」という行為のもつ意味を考えさせられるのです。
今回だけではありません。緑のパネルやプラカードをもって並び、声をあげるアメリカの妊娠中絶容認派。女性の不平等に対する怒りを訴えるために、黒い布で目を覆い赤い口紅にスカーフをして、こぶしを振り上げ合唱するチリの女性たち。LGBTQの権利を主張するためにレインボーフラグを掲げて歩く世界各地の人々。中国政府に抗議するために焼身自殺する少数民族のチベット人たち。「武器より花を」という反戦の思いを込めたスローガンを掲げ、平和の象徴である花や花柄を身につけた60年代後半の若者、フラワーチルドレン。
2017年から世界に拡大した#MeToo 運動は、ハッシュタグを通じて性暴力やセクシュアルハラスメントの被害経験をソーシャルメディア上で共有することを促進しました。#MeToo は、「性暴力」という言葉よりもソフトな印象を与えます。新たなツールを用いて誰でも参加できるように、共有できるようにしたことで、ソーシャルメディアの波に乗り、大きなムーブメントとなったのです。今や#MeToo は、性被害撲滅のシンボルです。
伝えるための手段が言葉である必要はありません。特定の色やツール、行為そのものが運動の象徴となり得るのです。そしてフラワーチルドレンがヒッピー風俗を形作っていったように、新たな文化を生むこともあるのです。
何のためにするのか。なぜその色なのか。その背景は何なのか。その行為の意味を自分なりに考えることで、それまでなかった新たな気づきが得られます。市民運動の目的の一つは、社会が抱える問題をはっきり目に見える形にあらわすこと。そこに触れて、考えを巡らせたり、深く掘り下げたりすることは、その運動を支えることになるでしょう。
今日10月2日は、マハトマ・ガンジーの誕生日を記念した国際非暴力デーです。なぜ彼女たちが髪を切るのか、自分なりに考えようと思います。
参考記事:
22日付 髪を適切に隠さないから拷問死か 22歳女性の悲劇 広がる怒りの声:朝日新聞デジタル (asahi.com)
21日付 Iran protests: Mahsa Amini’s death puts morality police under spotlight – BBC News