止まらぬ「教員離れ」 民間企業から得るリクルートのヒント

今日の日本経済新聞朝刊、社会面にあった「『教員離れ』止まらない」「公立小の採用倍率 最低」の見出し。2021年の公立小学校の採用試験の倍率は2.5倍と過去最低を更新しました。教育現場の労働負担の重さが指摘され、教員養成大学でも民間企業を選ぶ学生が増えています。

 

■免許取得者が「教員」を選ばないのは

筆者は教職課程を履修したので、中学社会科、高校公民科の一種免許を取得済みです。しかし確かに、生涯の職業として「公立学校教員」を選ぶことに、積極的でありません。教育実習に行った時に見た、現場の先生方の仕事の多さとコミュニティの小ささ。Twitterで「#教師のバトン」と調べれば、現場からの悲鳴が毎日更新されています。古い組織体制や「子どもたちのため」とはびこる長時間労働への不満。また、教材研究など自発的な業務が多いことから、長期の学校休業期間がある教員の勤務の特殊性を踏まえて制定された教職員給与特措法(給特法)にも批判が集まります。月給の4%分を上乗せする代わりに残業代を支払わないと定めているからです。

2021年10月にはさいたま地裁で、残業代支払いを巡る訴訟の判決が下りましたが、そこでは「授業準備は一コマ5分」とされ、それ以上は労働時間に入らないとされていました。「保護者対応」「児童相談」「宿題の確認」「小テストの添削」なども、あくまで「自主的なもの」であり、こちらも労働時間に認められないというのです。

▲司法が労働時間として認めた業務と、認めなかった業務。埼玉県で小学校教員を勤め、残業代支払いを巡る訴訟の原告となった田中まさお(仮名)さんのホームページより。

教員のやりがいや面白さは絶対にあると思っています。社会科の授業が必要不可欠であること、そしてその授業を充実させることが、子どもたちのみならず自分にとってもより良い未来につながるだろう、ということもわかります。社会科の学習は、この地球上にいる人々が、どう一緒に生きているのか、これからどう生きていくべきかを考えるためのものだと思うからです。

しかし、それとワークライフバランスの確保とを天秤にかけた時、及び腰になってしまいます。友人関係や家庭を大事にできるだろうか。社会に目を向け続けられるだろうか。職場以外のコミュニティーを築いたり、新しいことを勉強したりする余裕はあるだろうか。そして何より、自分が仕事の大きなやりがいだと思う「授業の研究」に時間を割けるのだろうか。様々な不安が頭をよぎります。

 

■民間企業に倣ったリクルートに力を入れてみては

イメージの悪い教員の職場環境ですが、必ずしも絶望的な職場ばかりではないことが、最近わかってきました。教育関係のボランティアをしていたこともあり、複数の知り合いの教員に話を聞くと、環境改善のために実際に行われている取り組みを教えてくれました。

・学年主任がカレンダーを用意し、月に一回必ず有給の◯をつけるよう促している

・男性教員が3週間育休を取得

・男性教員が、子どもや奥さんの体調が悪くなった時に時間給を取得

・部活動を外部コーチのみでの活動に徐々に移行

こういった現状を変えようとする具体的な取り組みを知ると、希望が見えてきます。この話を聞いて思い浮かんだのは、就職活動の際に見た、各企業のサイトや人事部によるプレゼンテーション。例えば、日本経済新聞社の採用サイトでは、育休から復帰した男性・女性社員の座談会が掲載されています。「ワークフローの見直し」「完全週休二日制」と、プライベートを大事にするための取り組み。「ベビーシッター法人割引制度」「利用料補助」「一人10万円の出産祝い金」などの育児支援制度。さらには「短期海外派遣」「記者塾」「語学留学」「デジタル基礎研修」など、社員の成長を支えるための取り組みが、分かりやすく示されています。ハードワークなイメージが強い職種ほど、こういった努力を欠かさないことで、採用時の志望倍率の高さや人材の質を確保しているのでしょう。

▲日本経済新聞社採用ページ。会社の育児支援の制度をどう使い、どれだけ役に立ったかがリアルな声として届く。

翻って、文科省の制作した「教員をめざそう!」という呼びかけから始まる28ページにわたるパンフレットを見てみると、ほとんどが教員の「やりがい」についての記述。職場環境をいかに改善しようとしているか、という説明はほとんど見受けられませんでした。「Q職場環境の改善はされているのでしょうか」という質問への答えは「副校長や主幹教諭などの制度を整備し、円滑に学校運営が実施されるような体制づくりを支援」「国・都道府県・市町村等が行う調査の縮減や統合」「学校のICT環境の整備・充実」……と、企業に比べればかなり抽象的であり、本当に改善されているのか不安になります。

▲文科省の発行するパンフレット「教員をめざそう!」の最後のページに載るQ&A。抽象度が高く、対策が現場に届いているのか、少々心許ない。

文科省や全国の教育委員会は一度民間企業のリクルート策を研究し、今どんな職場が学生に選ばれているのか、どんなアピール方法があるのか、採用にどれだけの投資が必要なのかを検討し直すことが必要なのではないでしょうか。そこに力を入れれば、自ずと「アピールできるだけの実績や取り組み」が必要になってきます。子どもたちの学ぶ権利を確保し、彼らの担う未来を明るいものにしていくために、国、自治体には、人材確保に本気で向き合うことを求めます。

 

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