アメリカが核合意から離脱した2018年から、再び経済制裁を受けるイラン。このところ核合意は復活するのかどうか、動向が注目されています。イランの最新ニュースを伝える、朝日新聞テヘラン支局の飯島健太支局長に特派員の仕事について伺いました。
2020年4月に就任し、同年10月に赴任した飯島さん。イランはレスリングが盛んな国で、東京五輪でもモハンマドレザー・ゲラーイー選手が金メダルを獲得しています。大学でレスリング部に所属していた飯島さんは、1年の春休みに強化合宿でイランを訪れたことがあり、テヘラン特派員の仕事に関心を持ったといいます。入社後は社内制度でロンドンに留学。国際政治学について学びました。
- 支局での業務
飯島さんの1日は朝7時半から。2歳の長男を保育園に送り、午前9時から仕事が始まります。イランの英字新聞2紙を読むのが日課です。欧米の通信社や研究機関の論文からも情報を得て、国内で何が起きているかを理解します。ペルシャ語の新聞もアシスタントに翻訳してもらって読むそうです。
取材の環境をめぐって、イランでは日本と大きく異なることを実感しているようです。企業など取材してみたい対象に申し入れても、断られることも少なくないといいます。テヘラン市内はいつでも取材できる許可を得ているそう。しかし、テヘラン市外での取材では、当局に別の許可証を追加で発行してもらわないといけません。発行されるまで時間がかかることもあり、許可が下りないこともあるそうです。
街中に出て市民や専門家に取材するほか、イラン在住の邦人と交流したり、他国に駐在する同僚の特派員と連絡を取り合ったりして記事の内容を詰めていき、日中の時間が終わります。
大切なのは「テーマをしっかり決めること」。最近では特に、制裁下でどのようなことが起きているのかについて、取材を進めているそうです。貴重な取材機会を無駄にしないよう、いきあたりばったりではなく、今起きていることを把握し、少しでも今後の見通しを理解するように心がけています。
午後5時、子どもを保育園に迎えに行き夕食をとります。7歳の長女も一緒に暮らしており、「子どもに振り回されていますね。それも、特派員生活に彩りを加えてくれます」。筆者が伺った日は、保育園でさまざまな民族の仮装をする日だったそう。インディアンのペイントをした長男が、支局に顔を見せに来ていました。
一段落した午後8時頃、再び支局に戻り残りの業務を終わらせて1日が終わります。
ちなみに、イスラム教国家であるイラン国内ではお酒を飲むことができません。晩酌ができない飯島さんの息抜きは読書とシーシャだそう。街中には多くのシーシャが吸える喫茶店があり、取材先と楽しむこともあるそうです。シーシャとはたばこの煙を水に通して吸う方法で、ブルーベリーやオレンジなどの香料のついたたばこがお気に入りだと言っていました。
- 記事執筆について
「普段はあまり注目されていなくても、中東は何かあったときに大きなニュースになる」。イランのニュースは日本人の関心が必ずしも高いとは言えません。それでも、日々の出来事を追い、記事を書き続けることが大切だと話します。意識しているのは、わかりやすさ。例えば、大統領の発言をそのまま報じるのでは、そのニュースの意味をきちんと伝えられないケースが考えられます。いち早く伝えるのが基本ですが、時には時間をかけて、街頭取材をして市民の声を入れたり、周辺国を担当する同僚記者と議論したりして、ニュースの経緯や背景を盛り込むように努めているそう。「事実の羅列で終わらないように気を配っています」。
新聞紙面は文字数の制限がありますが、デジタル版では長い記事も書くことができます。執筆後には、積極的に発信することも心がけています。ツイッターを通じて記事が拡散して、引用リツイートなどで大学教授など第三者の意見を貰うこともあります。
テヘランでの生活もまもなく2年を迎えます。アメリカの経済制裁の影響でクレジットカードは使えません。物価も上がり続けていることもあり、日常の生活でも苦労することは多いそう。産業界に目を向けると、欧米産の製品の輸入もままならず、物が不足している業界もたくさんあります。それでも、外国に対する依存度を少しでも減らし、発展を目指そうとするイランの振る舞いに、飯島さんの関心は強まるばかりです。「伝えたいよりも先に、まずは自分が知りたいという気持ちで取材をしている」。今日もイランのニュースを追い続けています。
参考記事:
8月27日 朝日新聞朝刊 11面 「核合意復活へ一歩 米・イラン、『最終文書』に反応」