”おてつたび” 感じた人の温かさ (甑島滞在記・後編)

「おてつたび」というサイトを通じて、鹿児島県にある離島「甑島(こしきしま)」の旅館でアルバイトをしました。その旅について二部構成で報告しています。

前編では「おてつたび」の仕組みについて紹介しました。今回は、主に甑島の魅力について報告したいと思います。

 

■甑島(こしきしま)について

甑島は、鹿児島県薩摩半島から西へ30キロほどに位置している離島で、上甑島、中甑島、下甑島が縦に連なってできています。一昨年に完成した甑大橋によって中甑島と下甑島も繋がり、今では三つの島が橋によって繋がっています。

筆者が滞在し、働かせてもらった石原荘は、上甑島の里町という所にあります。筆者はほとんどの時間を上甑で過ごし、下甑には一度しか行けませんでした。というのは、列島全体の長さが38㎞ほどもあるからです。東京から横浜までが約33㎞(Google Maps最短ルート検索より)だと言うことを考えると、離島とは言っても、そんな小さい地域ではないことがお分かりいただけるでしょう。ペーパードライバーの筆者は運転を避けたため、移動は宿から借りた自転車で行ける範囲に留まりました。

人口は列島全体で3833人ほど。2万4000人も島民がいたという70年前から考えると6分の1以下にまで減っており、減少の歯止めはいまだにかかっていません。また、薩摩川内市の推計では、少なくとも900戸近く、全体の約12%が空き家になっているようです。高齢者率が50%を超えるなど、人口減少は深刻な問題になっています。

実際に、町を歩いていても、見かけるのはご高齢の方か観光客ばかりで、若者が少ないことは肌で感じました。

 

■観光名所・魅力について

特産品として一番有名なのはキビナゴ。体長10cmほどの小さい魚です。水揚げされてすぐは癖がほとんどなく、骨ごと食べられるため、焼き物、揚げ物はもちろん、酢味噌につけてお刺身としても、とてもおいしかったです。

島でとれたキビナゴ

観光地は、景観が美しい長目の浜や、下甑島のナポレオン岩など、島の各地に点在しています。その中でも、筆者が特におすすめするのが下甑島にある恐竜ミュージアムです。なんと、甑島では恐竜やアンモナイトの化石が数多く発見されており、それらを発掘、修復したものが展示されています。2階の展示室の横には化石のクリーニング室があります。そこで化石が含まれた岩石から化石を掘り出すのですが、技量をかわれ一部の島民の方も作業に加わっているというから驚きです。中には、その道のプロをも唸らせる凄腕もいるのだと職員の方が教えてくれました。

甑島には、映画館やボーリング場、本屋などはありません。コンビニも、マクドナルドも、スターバックスもありません。都会に生きる我々からしてみれば、なかなか衝撃的でしょうか。また、夜間に営業をするお店は少なく、夜9時にはほぼ全てのお店が閉まってしまいます。しかし、豊かな自然と美しい海に囲まれ、夜にはきれいな星空を見ることができます。

そして、何よりも人が皆親切で優しかったのが印象に残っています。島民の方は必ずと言って良いほど誰にでも挨拶をするので、その有無で観光客かどうかわかってしまうのだとか。それほどに、フレンドリーな島民性は滞在中に幾度となく感じました。一度、初対面の方から昼食をごちそうになったほどです。

宿から借りていた自転車の鍵穴は錆び付いていたため、鍵はずっとつけっぱなしにしていました。潮風で錆びてしまっただけかもしれませんが、鍵をつけっぱなしでその辺の道に安心して停めて置ける環境に、都会にはない温かさを感じました。

 

■現在の観光業について

観光客は依然として少ないものの、以前よりは戻ってきているそうです。筆者が働かせてもらっていた石原荘でも、観光で訪れた宿泊客や3年ぶりに帰省したという方がいらっしゃいました。

コロナ禍の中で、観光客が激減しただけでなく、島内ではコロナに対する警戒心が強く、感染した人への非難の目も強かったそう。訪れた飲食店の店主の方に話を聞くと、ご家族がその地域で真っ先にコロナに罹ってしまったそうで、その際は、疑いの目や冷たい視線に悩まされたと仰っていました。先ほど島の人たちの親切ぶりを紹介しましたが、コロナばかりは別のようです。さいわい今ではそういったトラブルはなくなったようでした。

コロナ禍中は観光客が激減し、飲食店や宿の経営も厳しいものだったと言います。話を聞いたのは、上甑島にあるオソノベーカリー。レストラン客が激減する中でも、別に営んでいる豆腐屋と、島民向けにパンを販売することで何とか乗り切れたと言います。その時に、島の人の繋がり、温かさを実感したと話してくれました。

コミュニティは狭く、不審者情報などは一瞬で広まるのだそうです。その閉鎖性は、コロナ禍では排他的になるなど、負の側面も持ち合わせていますが、団結力や地域の温もりの源にもなっていることがわかりました。

 

■終わりに

旅を終えて、「おてつたび」の魅力は、地方との繋がりのきっかけなること、そして現地の暮らしに触れることが出来ることにあると考えました。遠く離れた離島に観光客としていくことはあっても、その地の暮らしに触れる機会は中々ありません。不便さもあるリアルな暮らしを体験した上で、フレンドリーな人柄と土地の魅力を知り、私は甑島のファンになりました。たった2週間ほどではありますが、縁もゆかりの無い土地に繋がりを作れたのは、ただの旅行では成し得なかったことではないでしょうか。

いま甑島では、観光業を盛り上げるべく様々なパンフレットの製作や移住を促進するための空き家バンクや家賃補助など様々な取り組みを進めています。その中の一つ、甑島ツーリズム推進協議会が発行しているタブロイド紙「KOSHIKI ZINE」には、島民にフォーカスした記事が載っています。このように、単なる観光地としてではなく、島の暮らしの魅力をアプローチすることで、その土地のファンを作っていけるのではないでしょうか。そうした人は何度も訪れるリピーターになってくるばかりか、ゆくゆくは移住先として選んでくれるかもしれません。

移住はさておき、筆者も大学生中にもう一度くらいは訪れたいなと今から楽しみにしています。皆さんも甑島を訪れてみませんか?

 

参考記事;

・4日付 朝日新聞オンライン『「観光以上、移住以下」をどう増やす? 民間サービスの現場を訪ねた』

 

参考資料;

つくろう、島の未来|ritokei(離島経済新聞)

KOSHIKI ZINE(コシキジーン) – こころ | 薩摩川内観光物産ガイド (satsumasendai.gr.jp)

人口減に向き合い甑島の明日へ 山下賢太の挑戦 鹿児島 | TBS NEWS DIG (1ページ)